アイキルユウ

と意外そうな顔色をする。訪問の本当の目的は派遣員も知っているはずだ。話をいつ切り出すか、タイミングを見計っていた。腹の探り合いのような気まずいやり取りが続いた。
「耕運機の部品は例によって生産してないんでしょう?自動車でも家庭用電気製品でもそうですけど欧米人は最後まで使いきりますね。物造りの考え方が違うのは、木の文化と石の文化の違いですかね」
と派遣員は文化論を持ちだした。黙って聞いていることにした。
「障子にしても畳にしても屋根葺きにしても、古くなったものは捨てて、新しい物と交換するのが前提で、モデルチェンジを繰り返す自動車や家電も、そののりなんじゃないんですか?この国は欧州列強の植民地だったから、一部分が壊れたからといってすべて交換するという発想はありません。おたくが乗ってきたタクシー、あっ、あれはハイヤーでしたっけ、まあ、どっちにしても、あの車にしても十年以上前に国民車として造られたもので、シャーシ以外はすべて修理の跡があるでしょう?」
と派遣員はビールを口にふくみ、
「それは別に貧乏だから物を大切にするというのではなくて、そういう文化だから。でも、こういう文化だからGDPが少ないとも言えます。戦争でもして、それほど物騒なことでなくても、無駄遣いをして、造った端から叩き壊せばGDPは大きくなるけれど、そうしたら仕事に追われて、この国の人々のように、家族と多くの時間を共有し、語らい、ゆったりと、心穏やかに人生を送ることはできないでしょう。国民性なんでしょうかね」
と派遣員はビールを一気に呑む。口笛を吹くように強く息を吐いた。
「つかぬことを伺いますが、長谷川さんと土岐さんはどういう関係なんですか?名刺には、『土岐調査事務所』とあったと思うんですが」
「説明が遅くなりました。長谷川とは大学時代の同級生で。一二年のクラスが同じで。長谷川は三年のとき転学部して文学部でフランス文学のゼミにはいって、それからは疎遠になって、キャンパスで会うと、挨拶をする程度になりましたが、それまでは、国際関係会というサークルに所属していて、二人で一緒に飲み歩いたものです」
「それだけの関係で、今回ここに、こられたんですか?」