アイキルユウ

 汗で汚れた下着で滴を拭い取る。そのままベッドに仰むけになった。木枠とスプリングが激しく軋む音が部屋に響いた。ベッドのバネの円い硬さが背中に食い込んだ。背筋と腰と膝の筋肉痛がシャワーで希釈され足先から頭頂まで浸透していった。後頭部に重く柔らかな疲労が蟠っていた。左右のこめかみが柔らかな護謨で挟みつけられているようだった。身動きができなかった。目を閉じてぼーっとしていた。不意に、
「食事の用意ができました。お待ちどうさま」
と声をかけるのをためらうようなノックがあった。
 土岐は慌てて跳ね起きた。
「はい、いますぐ伺います」
と答えた。急いで下着を身に着けた。
 派遣員はドアを半分開けた。ズボンを履き終えるまで外で待っていた。
 食堂は玄関の左手にあった。六人がけのテーブルが中央にあるだけだ。調度品の類は何もなかった。ゲストルームと同ように壁も床も剥きだしのコンクリートだった。隣の部屋が厨房になっているようだった。派遣員はそこからローカルビールとコップを二個持って出てきた。肉厚で重い薄緑の半透明の硝子コップにビールを注いだ。
「ようこそいらっしゃいました。土岐さん、でしたね」
と同国人の長旅をねぎらう。乾杯を柔和に求めてきた。
「週末のせっかくのお休みのところ押しかけてきまして」
とそれに呼応する。急遽訪問の非礼を衷心より詫びた。
「ここは週日も週末もないんです。自分自身、曜日の感覚がなくなってしまって、毎日が週日で、毎日が週末です」
と派遣員はさほど冷たくないビールの一杯目を飲み干した。
「ほんとうは、もっと早くくる予定だったんですが、途中機関車の故障で、一時間ほど列車が止まっちゃって」
と夜分おそく遅れて来たことの弁明をした。すると、派遣員は、
「この国ではよくあることです。むしろ遅れるのがあたり前で、時刻表通りだと彼らはかえって戸惑うんです。電化すれば、そういうこともなくなるだろうとは思いますけど」
と咎める気持ちなどまったくないと言いたげにフォローする。
 それからしばらくの間、空港近代化プロジェクトに関するさし障りのない話題になった。
 彼は遠くを眺めるように、
「この国は滑走路が短いから、大型旅客機が離発着出来ないんですよね。フィージビリティスタディは無償援助でしたけれど、本体工事そのものは借款になるんでしょう?」