「おれは事務所で雑用が待っているんで、とんぼ返りだ。そうしないと最終列車に間に合わない。そうだ、明日の切符を渡しておこう」
そう言いながら、長谷川が切手のような切符を土岐に手渡した。
「それで、僕はなにをするんだ?」
「前にも言ったが、農業派遣員に授賞式に出るように説得してくれ。一晩あれば、なんとかなるだろう」
「それだけか?」
「それだけだ。折角外務大臣がはるばる来て受賞式に参列するというのに派遣員ごときが、都合が悪いというのはけしからんというヘンサチのお怒りだ。どうしても来られないというのなら、その理由を聞き出してくれ。おれが聞いたときは、『農繁期なんで、一日も留守にできない』と言っていたが多分嘘だろう。まあ、理由が分かれば、手の打ちようもある」
「その派遣員は、なんていったっけ?」
「小川伺朗だ。それから、故障しているトラクターの件は、聞いてもどうせ分からないだろうから、答えられないだろうし、まあ、メモでもして適当に聞いといてくれ」
不意に土岐の股間に雷のような痙攣が走った。のたうつ膀胱の限界が近付いていた。
前方のダッシュボードの計器類の蠕動を見つめながら、
「もういいかげんに着くのかな」
という希望的な思いを土岐は漏らした。
集落を通過した。
ほどなく忽然とヘッドライトの両脇に白茶けたコンクリートの門柱が現れた。
低い木生羊歯の生垣の間を縫って玄関のポーチに滑り込んだ。
「じゃあ、おれはここで失礼する。場長に会うと時間を取られるんで、このまま駅に戻る」
と長谷川が携帯電話を差し出した。
「この携帯を持って行ってくれ。おまえ用のを借りておくのを忘れた。緊急の場合はそれを使ってくれ。こっちからかけることは多分ないとは思うが、もっていてくれれば安心だ」
「連絡先は、登録してあるのか?」
「ああ。この車を明日の昼ごろまでにこっちに差し向ける。カネは明日の分もいま先に払っておくから、この車で駅まで来てくれ」
急ブレーキに土岐は思わず失禁しそうになった。
長谷川が運転手と交渉する。カネを払おうとすると運転手は首筋を掻いた。
「支払いは明日にしてくれないか。今夜もらっても、そっくりゲリラに盗られてしまったら、それまでだから」
と確認するように説明する。
長谷川は二つ折りの財布を引っ込めた。
そう言いながら、長谷川が切手のような切符を土岐に手渡した。
「それで、僕はなにをするんだ?」
「前にも言ったが、農業派遣員に授賞式に出るように説得してくれ。一晩あれば、なんとかなるだろう」
「それだけか?」
「それだけだ。折角外務大臣がはるばる来て受賞式に参列するというのに派遣員ごときが、都合が悪いというのはけしからんというヘンサチのお怒りだ。どうしても来られないというのなら、その理由を聞き出してくれ。おれが聞いたときは、『農繁期なんで、一日も留守にできない』と言っていたが多分嘘だろう。まあ、理由が分かれば、手の打ちようもある」
「その派遣員は、なんていったっけ?」
「小川伺朗だ。それから、故障しているトラクターの件は、聞いてもどうせ分からないだろうから、答えられないだろうし、まあ、メモでもして適当に聞いといてくれ」
不意に土岐の股間に雷のような痙攣が走った。のたうつ膀胱の限界が近付いていた。
前方のダッシュボードの計器類の蠕動を見つめながら、
「もういいかげんに着くのかな」
という希望的な思いを土岐は漏らした。
集落を通過した。
ほどなく忽然とヘッドライトの両脇に白茶けたコンクリートの門柱が現れた。
低い木生羊歯の生垣の間を縫って玄関のポーチに滑り込んだ。
「じゃあ、おれはここで失礼する。場長に会うと時間を取られるんで、このまま駅に戻る」
と長谷川が携帯電話を差し出した。
「この携帯を持って行ってくれ。おまえ用のを借りておくのを忘れた。緊急の場合はそれを使ってくれ。こっちからかけることは多分ないとは思うが、もっていてくれれば安心だ」
「連絡先は、登録してあるのか?」
「ああ。この車を明日の昼ごろまでにこっちに差し向ける。カネは明日の分もいま先に払っておくから、この車で駅まで来てくれ」
急ブレーキに土岐は思わず失禁しそうになった。
長谷川が運転手と交渉する。カネを払おうとすると運転手は首筋を掻いた。
「支払いは明日にしてくれないか。今夜もらっても、そっくりゲリラに盗られてしまったら、それまでだから」
と確認するように説明する。
長谷川は二つ折りの財布を引っ込めた。


