アイキルユウ

「ヘンサチ夫人のことか?」
「そう、加藤夫人と君の関係」
「どうかな。うすうす気づいているかも知れない」
「銀行マンのほうはどうだ?」
「ジャナイデスカ夫人のことか?」
「そう牛田夫人と君の関係」
「どうかな。あいつは勘が鈍いから気づいてないかも知れない」
「夫人同士はどうなんだ?」
「夫人同士って?」
「彼女らは、君が二股かけていることを知っているのか?」
「知らないだろう。彼女らは勘が鋭いから疑ってるかも知れないが」
 二十頭ほどの羊の群れに遭遇した。
 運転手はけたたましく警笛を鳴らし続けた。
 羊たちは悠然と闊歩し道を譲る気配がなかった。
 羊飼いの痩せこけた青年が胡散臭そうに運転手を睨みつける。先頭の羊を路肩に寄せた。
 運転手は車を路肩の外に半分乗りだした。廃棄物のような潅木をなぎ倒す。羊の群れを追い越した。
 車の底を潅木の枝が引っ掻く夾雑音が聞こえた。
 道路の中央に牛が悠然と寝そべっているときも同ように路肩を迂回した。牛の群れが道路を横断しているときはさすがに急ブレーキで停車せざるを得なかった。
 体がつんのめり脇のショルダーバッグがシートから落ちた。
 運転手は苛立たしそうに両手の指先でハンドルをリズミカルに叩いた。
 牛追いの若者は薄ら笑いを浮かべる。腰布を蹴だして通り過ぎた。
 運転手は舌打ちをする。失われた時を挽回するように再び憤然と車を疾駆させた。
 土岐が口を開く。
「どうすんだ、このまま、この関係を続けていくのか?」
「まあ、成行きに任せる」
「そんなことしていたら、いずれ身を滅ぼすぞ」
「そのときは、そのときだ。駐在員生活はいずれ終わる。おれが先かも知れないし、ヘンサチやジャナイデスカもいずれいなくなる」
「I kill youは脅しじゃないかも知れないな」
「だから、おまえに依頼した」
「尻拭いをしてくれということか」
「そういうことになるのかも知れない」
「日本にも女がいたんだろ?」
「佐知子のことか」
「そうだ。事務所の家政婦にも手を出しただろ」
「ゴンゲイガウのことか?」
「そんなような名前だったな」
「どうということはない。ただの遊びだ」
「だけど、外国人だぞ。文化が違う。君は遊びだと思っていても、あっちはそう思っていないかも知れない」
「そうかも知れないが、もう結婚した」