と長谷川はぶっきらぼうに伝えた。コックは乱杭歯を歯茎ごと剥きだしにした。首を斜め前後に振る。意味もなく、ニタニタしているのが気になった。
食堂に戻りながら、長谷川が説明する。
「コックとショスタロカヤは仲が悪い。年齢はコックの方が二十も上だが、人種と宗教と階級と貧富の四重の相異が不仲の原因だ。給与はショスタロカヤの方が高い。階級はキスケンシュノショの方が上だ。階級はこの国の憲法では存在しないことになっているが、数千年続いてきた階級制度が数十年で霧消するはずもない」
と土岐が訊いているのを確認しながら、
「宗教はコックが土着宗教で、運転手がムスリムだ。人種はキスケンシュノショがずんぐりむっくりの原住民族でゲンジュイ人だ。ショスタロカヤは千五百年前の侵略民族でブシュウン人だ。肌の色こそ黒いが目鼻立ちの整ったアーリア系だ」
「それが、今回のミッションとどういう関係があるんだ」
と土岐は聞かずにはいられなかった。
「まあきけ。どこかに、今回の件のヒントがあるかもしれない」
と軽く肘で土岐の横っ腹を小突きながら、
「多くの場合は村単位で同一民族、同一宗教、同一階級、同一所得水準の人々が生活しているが、この首都近辺では地方からの流入人口が多い。異なる類の住民が道路を一本隔ててパッチワークのように分布している。あまりにも小競り合いが日常茶飯なんで、新聞記事にすらならない。こうした紛争のモザイクを更に錯綜させてるのが、新興富裕層の台頭だ。彼らは主に繊維産業に従事している。中古のモーターや織機を購入し、家内工業から規模を徐々に大きくしている。商売の才能は、人種も宗教も階級も選ばない。多少の制約はあるものの、背に腹はかえられない取引では、そうした従来からの障壁も超えてしまう。その結果、商売優先の行動が裏切り行為と評価されて、仲間意識に亀裂が走る。おれのここでの仕事はその亀裂を増幅させてる」
とおしゃべりな長谷川の話は続く。
「取引相手の中にはおれのことを恨んでいる奴がいるかも知れない。そんな連中のなかにI kill youの送信者がいるとしたら、お手上げだ。たぶん突き止めることはできないだろう」
と自問自答するように、
食堂に戻りながら、長谷川が説明する。
「コックとショスタロカヤは仲が悪い。年齢はコックの方が二十も上だが、人種と宗教と階級と貧富の四重の相異が不仲の原因だ。給与はショスタロカヤの方が高い。階級はキスケンシュノショの方が上だ。階級はこの国の憲法では存在しないことになっているが、数千年続いてきた階級制度が数十年で霧消するはずもない」
と土岐が訊いているのを確認しながら、
「宗教はコックが土着宗教で、運転手がムスリムだ。人種はキスケンシュノショがずんぐりむっくりの原住民族でゲンジュイ人だ。ショスタロカヤは千五百年前の侵略民族でブシュウン人だ。肌の色こそ黒いが目鼻立ちの整ったアーリア系だ」
「それが、今回のミッションとどういう関係があるんだ」
と土岐は聞かずにはいられなかった。
「まあきけ。どこかに、今回の件のヒントがあるかもしれない」
と軽く肘で土岐の横っ腹を小突きながら、
「多くの場合は村単位で同一民族、同一宗教、同一階級、同一所得水準の人々が生活しているが、この首都近辺では地方からの流入人口が多い。異なる類の住民が道路を一本隔ててパッチワークのように分布している。あまりにも小競り合いが日常茶飯なんで、新聞記事にすらならない。こうした紛争のモザイクを更に錯綜させてるのが、新興富裕層の台頭だ。彼らは主に繊維産業に従事している。中古のモーターや織機を購入し、家内工業から規模を徐々に大きくしている。商売の才能は、人種も宗教も階級も選ばない。多少の制約はあるものの、背に腹はかえられない取引では、そうした従来からの障壁も超えてしまう。その結果、商売優先の行動が裏切り行為と評価されて、仲間意識に亀裂が走る。おれのここでの仕事はその亀裂を増幅させてる」
とおしゃべりな長谷川の話は続く。
「取引相手の中にはおれのことを恨んでいる奴がいるかも知れない。そんな連中のなかにI kill youの送信者がいるとしたら、お手上げだ。たぶん突き止めることはできないだろう」
と自問自答するように、