「たしかに。ホテルの教会の十字架の前で牧師様の言葉を復唱して永遠の愛を誓ったわ。永遠の愛というのはあの時点での永遠の愛という意味だったみたい。時間と場所が限定されていたのね。でも、こんなに早く条件が崩れるなんて。せめて子供でも出来ていれば、また状況も違っていたかも知れないのに」
ひたすら他人の非をあげつらうような加藤の性格がそういう夫婦関係を誘引したのか、あるいはそういう背景が彼のそういう言動を導出しているのか、どちらにしても結果は同じなので問いただすことはせず、長谷川は沈黙を守っている。
車内は鋭利な直射日光で次第に暑苦しくなり始めていた。開け放たれた車窓から吹き込む風はむっとするほど生温かった。草いきれが鼻腔を小突く。代わり映えのしない荒れ果てた風景が延々と続いた。
次第に意識が霞む。瞼が重くなる。無想の状態が長く続いた。車輪が線路の繋ぎ目を跨ぐ音がメトロノームのように近付いたり、遠くなったりした。窓から吹き込む風が間欠的に強くなったり、弱くなったりした。踏み切りの警報音が高くなって近付き、低くなって遠ざかって行った。土岐の意識がフェイドアウトした。
「あなたって不思議な人。恥ずかしくて言えそうもないことも平気で言えてしまうわ」
「そう言えば、高校生のとき、受信局というニックネームをつけられそうになったことがありました」
と多少、脚色めいたことを長谷川が言う。
慶子は乾いた声で力なく笑った。
「まあ、そうなの。放送局というあだ名はよく聞くけど」
不意に、座席と衣服が擦れ合う音が聞こえてきた。慶子の上半身が長谷川の方に傾いた。
長谷川が慶子の肩に手を回して少し引き寄せている。
慶子は前屈して横向きに倒れた。
土岐は通路側に移動する。斜め後ろから覗き込んだ。慶子の豊かな黒髪が長谷川の下半身に散らばっている。
慶子は片方の耳を下にしている。家猫のように目を閉じて長谷川の股間の上で気持ちよさそうに眼を閉じている。
「私、彼がマスターベーションしているところを見てしまったの。よくわからないけど、女の人と男の人のってどう違うのかしら」
という告白に長谷川は言葉を失った。
「さァ」
としか答えられない。
長谷川の下半身の血流が徐々に増える。心臓からの脈動が慶子の横顔に十分伝わっている。
慶子は眠り始めた。
土岐は同じ車両の軍人の視線が気になった。
ひたすら他人の非をあげつらうような加藤の性格がそういう夫婦関係を誘引したのか、あるいはそういう背景が彼のそういう言動を導出しているのか、どちらにしても結果は同じなので問いただすことはせず、長谷川は沈黙を守っている。
車内は鋭利な直射日光で次第に暑苦しくなり始めていた。開け放たれた車窓から吹き込む風はむっとするほど生温かった。草いきれが鼻腔を小突く。代わり映えのしない荒れ果てた風景が延々と続いた。
次第に意識が霞む。瞼が重くなる。無想の状態が長く続いた。車輪が線路の繋ぎ目を跨ぐ音がメトロノームのように近付いたり、遠くなったりした。窓から吹き込む風が間欠的に強くなったり、弱くなったりした。踏み切りの警報音が高くなって近付き、低くなって遠ざかって行った。土岐の意識がフェイドアウトした。
「あなたって不思議な人。恥ずかしくて言えそうもないことも平気で言えてしまうわ」
「そう言えば、高校生のとき、受信局というニックネームをつけられそうになったことがありました」
と多少、脚色めいたことを長谷川が言う。
慶子は乾いた声で力なく笑った。
「まあ、そうなの。放送局というあだ名はよく聞くけど」
不意に、座席と衣服が擦れ合う音が聞こえてきた。慶子の上半身が長谷川の方に傾いた。
長谷川が慶子の肩に手を回して少し引き寄せている。
慶子は前屈して横向きに倒れた。
土岐は通路側に移動する。斜め後ろから覗き込んだ。慶子の豊かな黒髪が長谷川の下半身に散らばっている。
慶子は片方の耳を下にしている。家猫のように目を閉じて長谷川の股間の上で気持ちよさそうに眼を閉じている。
「私、彼がマスターベーションしているところを見てしまったの。よくわからないけど、女の人と男の人のってどう違うのかしら」
という告白に長谷川は言葉を失った。
「さァ」
としか答えられない。
長谷川の下半身の血流が徐々に増える。心臓からの脈動が慶子の横顔に十分伝わっている。
慶子は眠り始めた。
土岐は同じ車両の軍人の視線が気になった。


