「犯人はアンケートで、クロスボウの試し打ち会場までの交通アクセスを書かせている。要請通りの格好をしてるかどうか、出発地点で確認するためだ。だから犯人は9時前からネット喫茶好奇の出入り口を見張ってた。そこで真田がスポーツサングラスとスポーツマスクをかけてないことに気付いた。かけてたマスクは普通の風邪用の白いマスクだ。スポーツサングラスは外せばいいが、風邪用のマスクは、上野駅前のドラッグストアで買う必要があった。上野の地下街でとられた監視カメラの映像が9時半なのは、マスクを買う時間がかかったからだ。普通に歩けば、ネット喫茶好奇から上野の地下街までせいぜい10分以内だ」
「なら、二十分かけてマスクを買ったということか。・・・それはすこしかかりすぎだろう」
「真田が乗車するバスは9時21分発だった。ネット喫茶からバス停まで5分もあれば十分だ。真田は9時ちょうどではなく、9時10分ごろネット喫茶を出た」
「・・・俺が見た証拠の画像では、どれも男は監視カメラのほうに体を向けてタバコに火をつけていた」
「そう。あの画像は男が通りすがりに記録されたんじゃなく、男が監視カメラに自分を記録させたんだ。しかも、真田とみせかけて、・・・」
「・・・とするとその男は誰だ。院長の梨本か」
「いや。いまのところ、電話で聞いただけだけど、梨本のアリバイは取れてる。1月17日の木曜は、梨本は母校の宝徳大学付属病院で非常勤の診療をしてる」
「・・・じゃ、・・・誰だ」
「今田だ」
 宇多が少し腰を浮かせた。
「・・・なに!じゃあ、今田は自分が殺されるために真田を偽装していたのか。でも、背丈は真田と今田は同じぐらいだが、今田は細身で、真田は小太りだ。証拠の画像だと、どう見ても小太りに見える。それに今田は細面で、真田は丸顔だ」
「今田は遺体発見当時の黒のフード付きスウェットと茶のコールテンのズボンをピューマ製のジャージーの下に着てた。ようするに着膨れしてた。それにタバコを吸うときにマスクを顎にずらせば丸顔に見える。少なくともあごの線は隠れるから細面かどうかはわからない」
「・・・ちょっと待て。・・・一番鮮明な画像を見せろ」と宇多が言う。土岐はクリアファイルから、その画像を取り出した。宇多がカラーコピーの上下を反転させる。