「・・・被験者に治験の目的を説明したり、負担軽減費を支給したり、治験結果をまとめたり、医師や看護師と治験の打ち合わせをしたり、・・・」
「ということは殺害された今田とかなり、濃密な接触があったということですね」
「・・・まさか、彼女は院長先生を慕っているんですよ」と声を潜める。
「院長先生のほうは?」
「・・・さあ」と言いながら佐藤は土岐の質問の意図を目で探ろうとする。
「院長先生は独身なんですか?」
「・・・そうです」と言う佐藤の声に張りがある。土岐は話に詰まった。そこで佐藤の携帯電話が鳴った。呼び出されたようだ。佐藤はかき込むようにして、ハンバーグステーキを平らげると、ランチについてくるデザートを注文しないで、先にファミレスを出ていった。
土岐はJRの鶯谷駅まで歩くことにした。鬼子母神の前を通って、JRの鶯谷駅に着いたのは一時過ぎだった。山の手線で田端についたのは一時半ごろだった。駅員に喫茶店ヤマナカの所在を聞くと知らないという。
「ナカヤマという喫茶店なら陸橋を渡り右方向に坂を下り、横断歩道を渡ったところ」と言う。言われたとおりに歩いてゆくと、埃っぽい外装の安普請の喫茶店ナカヤマがあった。二時までまだ二十分近くある。入り口から一番近い席に座ると宇多に電話をかけた。三時過ぎに九段の事務所で会えないかという要請に、自宅で休んでいた宇多は不承不承で承諾した。つぎに、土橋に電話した。五分ほどで土橋が現れた。四角い顔の小柄な男だった。土岐と一瞬、目線が合った。土岐は名刺を差し出した。
「土岐明調査事務所。どんな調査をされているんで?」と土橋は名刺に目を落としている。
「なんでも。ある法律事務所と嘱託契約結んでまして、今日伺ったのはその関係の調査で」
「・・・どういうことですか?」
「1月17日、殺人事件がありまして。その被疑者が9時21分発の都バスに上野公園から隅田公園まで乗車したとアリバイを主張してるんです。ピューマのグレーの上下のジャージーを着て、濃紺のニューヨークヤンキースの野球帽かぶり、白いマスクをかけ、肩から緑色の袋を下げてたんですが、見覚えありませんか?」
「・・・それなら、刑事さんに同じことを尋ねられました」
「どう答えたんですか?」
「・・・『始発に乗っていたような気がする』、と答えました」
「それ聞いて刑事はなんか言いました?」
「ということは殺害された今田とかなり、濃密な接触があったということですね」
「・・・まさか、彼女は院長先生を慕っているんですよ」と声を潜める。
「院長先生のほうは?」
「・・・さあ」と言いながら佐藤は土岐の質問の意図を目で探ろうとする。
「院長先生は独身なんですか?」
「・・・そうです」と言う佐藤の声に張りがある。土岐は話に詰まった。そこで佐藤の携帯電話が鳴った。呼び出されたようだ。佐藤はかき込むようにして、ハンバーグステーキを平らげると、ランチについてくるデザートを注文しないで、先にファミレスを出ていった。
土岐はJRの鶯谷駅まで歩くことにした。鬼子母神の前を通って、JRの鶯谷駅に着いたのは一時過ぎだった。山の手線で田端についたのは一時半ごろだった。駅員に喫茶店ヤマナカの所在を聞くと知らないという。
「ナカヤマという喫茶店なら陸橋を渡り右方向に坂を下り、横断歩道を渡ったところ」と言う。言われたとおりに歩いてゆくと、埃っぽい外装の安普請の喫茶店ナカヤマがあった。二時までまだ二十分近くある。入り口から一番近い席に座ると宇多に電話をかけた。三時過ぎに九段の事務所で会えないかという要請に、自宅で休んでいた宇多は不承不承で承諾した。つぎに、土橋に電話した。五分ほどで土橋が現れた。四角い顔の小柄な男だった。土岐と一瞬、目線が合った。土岐は名刺を差し出した。
「土岐明調査事務所。どんな調査をされているんで?」と土橋は名刺に目を落としている。
「なんでも。ある法律事務所と嘱託契約結んでまして、今日伺ったのはその関係の調査で」
「・・・どういうことですか?」
「1月17日、殺人事件がありまして。その被疑者が9時21分発の都バスに上野公園から隅田公園まで乗車したとアリバイを主張してるんです。ピューマのグレーの上下のジャージーを着て、濃紺のニューヨークヤンキースの野球帽かぶり、白いマスクをかけ、肩から緑色の袋を下げてたんですが、見覚えありませんか?」
「・・・それなら、刑事さんに同じことを尋ねられました」
「どう答えたんですか?」
「・・・『始発に乗っていたような気がする』、と答えました」
「それ聞いて刑事はなんか言いました?」