「千寿南クリニックは、どうして治験の仕事してるんですか?」
「かなり実入りがいいんですよ。ただ、安定してあるというものでもないので、治験の仕事があるときに、いかに多く消化するかで、収入が多くなったり、少なくなったりするんです」
「千寿南クリニックの経営状態はご存知ですか?」という土岐の問いに佐藤は戸惑いを見せる。そこに、日替わりランチが運ばれてきた。佐藤は言葉を選びながらゆっくり話し出した。
「あのクリニックの院長先生は母子家庭の一人っ子で、私立の医学部に入るとき、看護師だったお母さんがだいぶ借金して、在学中も貸与奨学金を受けていて、あのクリニックの建物を購入する時も大分、信用金庫から借り入れをしたみたいで、弊社からの高額の医療機器もローンを返済しているところです。借金を抱えている病院は珍しくないけれど、あの院長も億単位の借金があるんじゃないですかね。お母さんも看護師として働いているような状態で」
 土岐は昨日千寿南クリニックの一階を覗いたときに見かけた大柄な老女を思い出した。
「・・・院長先生も、木曜日の定休日にはよその病院で一日中、非常勤で働いています」
「殺害された今田という人は、規約以上に治験に参加してたという可能性ありませんか?」
「難しいでしょう。できないこともないかもしれませんが依頼している製薬会社にばれたら訴訟ものじゃないですか。製薬会社は厚労省の認可がほしいから目をつぶるとは思いますが」
「治験で規約違反があれば治験のやり直しで、認可が遅くなるということですか?」
「一応建前として個人情報は伏せるということになっているので病院側が意図的に操作すれば、できないことはないと思うけど、ばれたときのことを考えるとペイしないでしょうね」
「かりに、そういうことがあったとすれば千寿南クリニックの女性は、知ってるでしょうね」
「・・・院長先生のお母さんのことですか?」
「いえ、若くてきれいな人がいますよね」
「・・・平尾さんですか?」と言う佐藤の声が少し上ずっていた。
「あんな美人がなんで、あんな病院の受付やってるんですかね?」
「・・・彼女は受付もやっていますが、・・・本業はCRCなんです」
「CRC?ってなんですか?」
「・・・クリニカル・リサーチ・コーディネータ、いわゆる治験コーディネーターです」
「どういう仕事なんですか?」