「・・・まあ、ものにもよるけど、・・・三、四か月、・・・」
「でも、色んな病院で色んな治験をやってるようだから渡り歩けばいいんでしょ」
「それは投薬の効果が特定できないから禁止されている。複数治験をやっちゃうと薬の飲み合わせが悪い場合、著しい健康被害の生ずることがある。最悪、死に至ることだってある」
「じゃあ、治験で生活するのは不可能ってことですか?」
「ルールを犯せば、できないことはないけど、ルールを守らないことは想定されていない。
掛け持ちでやっているボランティアもいるようだけど。でも、時々名寄せをしているから、ばれたらその治験ボランティアはブラックリストに載って、それまでだ。治験に参加できなくなる。それに治験ボランティアは保険証持参が条件だから重複治験や連続治験をやるとなると、ばれないためには治験者の名義をすりかえなければならない。そのとき初診・再診料、医学管理等、投薬の名目で保険請求するから、不正請求をしていることになる。言っておくけれど、あんたは肝臓の数値が悪いから、治験ボランティアにはなれないよ。・・・今日は受診じゃないの?」という医者の声が土岐の背中に投げかけられた。
その足で土岐は、京浜東北線で御徒町のスポーツ用品店パープルに向かった。アメヤ横丁脇の四階建ての真黄色のビルだった。御徒町駅から三分ほどの距離だ。一階にいた茶髪の男子店員にポスシステムを管理している部署を聞いた。
四人も入れば満員になりそうなエレベータで四階で降りた。降りたところに腰高の受付カウンターがあり、そこから二十坪ほどの薄暗いフロア全体が見渡せる。五、六人の社員が見える。のんびりしている。散発的にキーボードを叩く音がする。
「すいませーん」と土岐が高いキーで言うと受付カウンターの奥の机にいた女子事務員が立ち上がった。土岐はポケットから名刺を出した。女子事務員は名刺を見ながら、土岐を受付脇の応接セットに誘導した。一メートル半ほどのクリーム色のパーティションに囲まれている。しばらくして、浅黒い顔のずんぐりむっくりした男が現れた。手に土岐の名刺を持っている。男が自分の名刺をさしだす。土岐の名刺をテーブルに置いてソファに腰かけた。
「でも、色んな病院で色んな治験をやってるようだから渡り歩けばいいんでしょ」
「それは投薬の効果が特定できないから禁止されている。複数治験をやっちゃうと薬の飲み合わせが悪い場合、著しい健康被害の生ずることがある。最悪、死に至ることだってある」
「じゃあ、治験で生活するのは不可能ってことですか?」
「ルールを犯せば、できないことはないけど、ルールを守らないことは想定されていない。
掛け持ちでやっているボランティアもいるようだけど。でも、時々名寄せをしているから、ばれたらその治験ボランティアはブラックリストに載って、それまでだ。治験に参加できなくなる。それに治験ボランティアは保険証持参が条件だから重複治験や連続治験をやるとなると、ばれないためには治験者の名義をすりかえなければならない。そのとき初診・再診料、医学管理等、投薬の名目で保険請求するから、不正請求をしていることになる。言っておくけれど、あんたは肝臓の数値が悪いから、治験ボランティアにはなれないよ。・・・今日は受診じゃないの?」という医者の声が土岐の背中に投げかけられた。
その足で土岐は、京浜東北線で御徒町のスポーツ用品店パープルに向かった。アメヤ横丁脇の四階建ての真黄色のビルだった。御徒町駅から三分ほどの距離だ。一階にいた茶髪の男子店員にポスシステムを管理している部署を聞いた。
四人も入れば満員になりそうなエレベータで四階で降りた。降りたところに腰高の受付カウンターがあり、そこから二十坪ほどの薄暗いフロア全体が見渡せる。五、六人の社員が見える。のんびりしている。散発的にキーボードを叩く音がする。
「すいませーん」と土岐が高いキーで言うと受付カウンターの奥の机にいた女子事務員が立ち上がった。土岐はポケットから名刺を出した。女子事務員は名刺を見ながら、土岐を受付脇の応接セットに誘導した。一メートル半ほどのクリーム色のパーティションに囲まれている。しばらくして、浅黒い顔のずんぐりむっくりした男が現れた。手に土岐の名刺を持っている。男が自分の名刺をさしだす。土岐の名刺をテーブルに置いてソファに腰かけた。