「これが一番鮮明な映像だ」と宇多がアタッシュケースをテーブルの上に置いてコピーを一枚取り出した。土岐の前に出されたコピーにジャージーの上下と野球帽をかぶった男が煙草に火をつけている見覚えのある画像がある。白いマスクをあごにずらして煙草をくわえ、右手のライターに左手を添えている。首筋に長髪が黒い塊になって見える。
「確かに、これじゃ顔が確認できないですね。どれも同じポーズなんですよね。後半の4枚は道路に背を向けて、レンズに正対してる」
宇多は土岐の手元を覗き込む。土岐の鼻先を柑橘系のヘアトニックの匂いがかすめる。
「タバコに火をつけているところか。北風が吹いていたのかもしれない。レンズに正対したのではなく、正面からくる北風でライターの火が消えないように横向きになったのかも」
「道路を向いてない。正面の北風を避けるなら道路に正対しても」と土岐は自信なげに言う。
「・・・真田は右利きなんだ。右手でライターを持てば、左手で北風を遮蔽できる。そのためには道路に背を向ける必要がある。歩道を挟んで道路は西、レンズは東だ。その映像は本人が静止しているから、鮮明なんだ。・・・何か気になるか?」
「画像の時刻を見ると、だいたい5分おきに煙草に火をつけてる」
「・・・真田は相当なヘビースモーカーだったと言っていた」
「チェーンスモカーだったんですか?」
「ただ、それは昔の話で、最近はカネがないので、節煙していたそうだ。それにモク拾い・・・」
「すると、事件当日は興奮してて、ついチェーンスモークしたということですか?」
「・・・そうかもしれないが、・・・何に興奮していたのか?」
「殺人に、・・・」
「検察のシナリオではボウガンの試し打ちで計画的な殺人ではない。要するに検察は動機を解明できていない」と言いながら宇多はイタリア製の靴を跳ね上げるようにして足を組む。
土岐は考え込んで、独り言のように言う。
「試し打ちで人を殺すでしょうか?」
「・・・検察が立証したいのは、未必の故意の殺人だ」
「未必の故意?」
「明確な殺意はないにしろ、ボウガンで試し打ちすれば今田は死ぬかもしれない。必ず死ぬとは限らないが死んでもいいや、という思いで試し打ちすれば未必の故意が成立する」
「確かに、これじゃ顔が確認できないですね。どれも同じポーズなんですよね。後半の4枚は道路に背を向けて、レンズに正対してる」
宇多は土岐の手元を覗き込む。土岐の鼻先を柑橘系のヘアトニックの匂いがかすめる。
「タバコに火をつけているところか。北風が吹いていたのかもしれない。レンズに正対したのではなく、正面からくる北風でライターの火が消えないように横向きになったのかも」
「道路を向いてない。正面の北風を避けるなら道路に正対しても」と土岐は自信なげに言う。
「・・・真田は右利きなんだ。右手でライターを持てば、左手で北風を遮蔽できる。そのためには道路に背を向ける必要がある。歩道を挟んで道路は西、レンズは東だ。その映像は本人が静止しているから、鮮明なんだ。・・・何か気になるか?」
「画像の時刻を見ると、だいたい5分おきに煙草に火をつけてる」
「・・・真田は相当なヘビースモーカーだったと言っていた」
「チェーンスモカーだったんですか?」
「ただ、それは昔の話で、最近はカネがないので、節煙していたそうだ。それにモク拾い・・・」
「すると、事件当日は興奮してて、ついチェーンスモークしたということですか?」
「・・・そうかもしれないが、・・・何に興奮していたのか?」
「殺人に、・・・」
「検察のシナリオではボウガンの試し打ちで計画的な殺人ではない。要するに検察は動機を解明できていない」と言いながら宇多はイタリア製の靴を跳ね上げるようにして足を組む。
土岐は考え込んで、独り言のように言う。
「試し打ちで人を殺すでしょうか?」
「・・・検察が立証したいのは、未必の故意の殺人だ」
「未必の故意?」
「明確な殺意はないにしろ、ボウガンで試し打ちすれば今田は死ぬかもしれない。必ず死ぬとは限らないが死んでもいいや、という思いで試し打ちすれば未必の故意が成立する」