守衛は口に手を当てて、しばらく考えた。目が空の雲をなぞっている。
「交差点の斜め向かいのあの丸いビルに同窓会の事務室がありますんで、そこで」
警察官に似た身なりの守衛の指さす方角を見ると、正面が全面ガラス張りの丸いショールームのようなビルが見えた。ガラスにどんよりとした曇り空が映っていた。
土岐は交差点を渡り、ビルの中に入った。吹き抜けのエントランスに受付があり、丸い窓口を覗き込むと還暦に近そうな丸顔の婦人が奥の机に座って地方新聞を読んでいた。
婦人は老眼鏡をはずして、首だけ捻って土岐を認める。若草色のカーディガンのボタンをひとつ留めながら立ち上がった。柔らかな上目使いで土岐の前に来た。腰が少し曲がっている。
「戦前のことで恐縮なんですが、専門学校当時の同窓会名簿はこちらにあるでしょうか?」
婦人は受付から出て土岐を受付わきの別室に案内した。十畳ほどの資料室のようだった。窓の外に裏庭があり、壁の両面に書架と書類棚があった。ドアの手前と中央の机の上には未整理の資料の類が足の踏み場もないほどに乱雑に山積みになっていた。
婦人は窓際の一番上の書架を指差した。二段の踏み台をその下に置き部屋を出て行った。
三田法蔵が専門学校に入学したのが昭和十七、八年ごろとして、二年間の修学期間を終えずに戦死したとすれば、昭和二十年度ごろの卒業者名簿に物故者として掲載されている筈だ。しかし、昭和二十年度の同窓会名簿は存在しなかった。終戦直後の混乱や紙資源不足で、卒業者名簿どころではなかったのかも知れない。昭和二十一年度の同窓会名簿を見ると、百数十名の名前の中に下にカッコ書きで、〈戦死〉という記述の者が散見された。あいうえお順にたどって行くと、ま行に、〈三田法蔵:三重海軍航空隊入隊:戦死〉という記載があった。ついでに昭和二十二年度の卒業生名簿を見ると、あ行に、〈長田賢蔵:中途退学〉という注記があった。
一般的に、卒業生名簿には在学中に死亡した者や退学した者の名前は記載されないが、制作したのが仏教系の同窓会のせいか、茶に変色した模造紙の名簿には入学者全員が載っていた。
「交差点の斜め向かいのあの丸いビルに同窓会の事務室がありますんで、そこで」
警察官に似た身なりの守衛の指さす方角を見ると、正面が全面ガラス張りの丸いショールームのようなビルが見えた。ガラスにどんよりとした曇り空が映っていた。
土岐は交差点を渡り、ビルの中に入った。吹き抜けのエントランスに受付があり、丸い窓口を覗き込むと還暦に近そうな丸顔の婦人が奥の机に座って地方新聞を読んでいた。
婦人は老眼鏡をはずして、首だけ捻って土岐を認める。若草色のカーディガンのボタンをひとつ留めながら立ち上がった。柔らかな上目使いで土岐の前に来た。腰が少し曲がっている。
「戦前のことで恐縮なんですが、専門学校当時の同窓会名簿はこちらにあるでしょうか?」
婦人は受付から出て土岐を受付わきの別室に案内した。十畳ほどの資料室のようだった。窓の外に裏庭があり、壁の両面に書架と書類棚があった。ドアの手前と中央の机の上には未整理の資料の類が足の踏み場もないほどに乱雑に山積みになっていた。
婦人は窓際の一番上の書架を指差した。二段の踏み台をその下に置き部屋を出て行った。
三田法蔵が専門学校に入学したのが昭和十七、八年ごろとして、二年間の修学期間を終えずに戦死したとすれば、昭和二十年度ごろの卒業者名簿に物故者として掲載されている筈だ。しかし、昭和二十年度の同窓会名簿は存在しなかった。終戦直後の混乱や紙資源不足で、卒業者名簿どころではなかったのかも知れない。昭和二十一年度の同窓会名簿を見ると、百数十名の名前の中に下にカッコ書きで、〈戦死〉という記述の者が散見された。あいうえお順にたどって行くと、ま行に、〈三田法蔵:三重海軍航空隊入隊:戦死〉という記載があった。ついでに昭和二十二年度の卒業生名簿を見ると、あ行に、〈長田賢蔵:中途退学〉という注記があった。
一般的に、卒業生名簿には在学中に死亡した者や退学した者の名前は記載されないが、制作したのが仏教系の同窓会のせいか、茶に変色した模造紙の名簿には入学者全員が載っていた。


