法蔵飛魂

 勿体ぶったような言い方に、小さくふっくらとしたまぐろの赤味のような唇が盛り上がっている。ものほしげなニュアンスを土岐は感じた。土産を何も用意していない。
「戦時中、敦賀小町と呼ばれた女性が清和家のご子息とお見合いをされたようでして、そのとき廣川弘毅という人物が書生をしていたようで、その廣川弘毅が戦後、その敦賀小町と結婚し、つい最近、電車の事故で亡くなられたんです。その事故が殺人の疑いがあって」
「・・・と言わはれますと、土岐はんは警察の関係のお方でしゃろか?」
と言いながら俊彦はセンターテーブルに置いた土岐の名刺を見返す。
「その女性がお見合いをしたのは叔父ではないでしょうかねえ。敦賀には知り合いの華族はんはおられなかったと思います。父は公家同士で結婚していますから、敦賀のお人とお見合いをすることはなかった思います」
 陽に焼けた俊彦の顔が情けなさそうに笑っている。土岐はゴルフ焼けだと見立てた。
 敦賀の旅館で検索した紳士録の項目の中の交友関係に久邇頼道という名前のあったのを思い出していた。清和俊彦が東京で会食しているという人物である可能性があった。
「その頃、奉公していた及川光子いうばあやはんが北白川に隠居しておるはずどす。・・・そこでしたら、ご紹介できます」
と言いながら俊彦は受付にいた女秘書を呼び寄せ、年賀状を持ってこさせた。目当ての年賀状を探し出し、差出人の住所と名前と電話番号を読み上げた。土岐はシステム手帳に速筆でメモした。
「話は違いますが、以前、神州塗料OBの坂本茂さんの黄綬褒章の推薦状を書かれたとか」
「・・・信州塗料?ああ、あれは神州塗料の会長はんに頼まれたんどす。会長はんは、東京の社外監査役で、長瀬はんとかゆう公認会計士の入れ知恵だとか、言わはってましたけど・・・でも、実際に説明に来たのは東京の金井はんとかゆうお人で・・・」
 長瀬という名前と金井という名前に土岐の耳が反応した。長瀬は今でも神州塗料と関係を持っているようだ。土岐は金井について確認した。
「金井というのは、金井泰三のことですか?」
「下のお名前まではちょっと・・・眼ぇの鋭い人で・・・面立ちはなんとのう、昔の華族さんのような感じどしたけど・・・でも、ちょっと、お品のないようなお人どした」
「それから、坂本さんに、浦野さんの胸像の購入を勧めたとか。東京芸術大学の方だとか」