法蔵飛魂

 廣川弘毅はパスポートの写真とあまり変わらない。隣の永田賢蔵と説明された男も黒い法衣をまとい、数珠を持っていた。肉づき、背丈、姿勢、顔の輪郭が廣川によく似ていた。兄弟と言われても、疑いようのない感じだった。
「この永田賢蔵という人と廣川さんは、どういう関係ですか?」
「永田賢蔵さんは戦時中、この寺の小僧さんで、どういう関係だったかは、わかりません」
「この写真、コピーを取らせてもらえますか?」
「駅前に斎藤写真館がありますから、そこで複写され現物はそこに置いといてくだされば」
「どなたか、廣川夫妻のことを知っている人はいませんでしょうか?」
「父からは大恋愛だったというような話は聞いたことがあります。というか、廣川さんが略奪したというか、・・・祖父はあまり賛成ではなかったとか、むしろ反対だったとか」
「反対という理由は何だったんですか?」
「戦時中、宗門の集まりで祖父が京都に行ったとき、大叔母はある侯爵家の末の子息と見合いしたそうです。大叔母は美人だったもので。その侯爵家の書生が廣川さんだったとか」
「戦時中は、廣川さんは陸軍にいたんじゃないんですか?」
 坊主は首を傾ける。土岐の頭の中で事件の核心に迫りそうな疑問の渦が回転し始めた。
「その、侯爵家というのは、どちらですか?」
「・・・清和家です」

 法蔵寺を辞して、駅に戻りながら、住職が記憶の糸をたどるようにして言った〈清和家〉という名前をどこかで聞いたような気がしていた。
 駅前の斎藤写真館で先刻のスナップ写真のコピーを依頼した。出来上がったコピーをシステム手帳の間に挟んだ。
 写真館を出てインターネットカフェを探した。見当たらないので、観光案内所で聞くと、北国という旅館の一階の喫茶室にインターネットの設備があるとのことで、土岐はその旅館に向かった。
〈HOKKOKU〉というその旅館は、駅前商店街の中ほどにあった。先刻その前を通過していた。その時は、土産物屋だと思っていた。
 旅館の小さな立て看板が出ていたが、玄関の手前が土産物売り場になっていた。喫茶室は玄関の右手にあった。フリーの客が相手ではなく、投宿している客を対象としている店だった。旅館の浴衣とスリッパをはいた男女が二人、昼食を終えてコーヒーを飲んでいた。
 パソコンは十分百円になっていた。
 土岐は仲居のような店員にコーヒーと千円札の両替を頼んだ。