法蔵飛魂

 ハンチングに黒いインバネスコートの下はタートルネックといういでたちの土岐は敦賀駅から十五分ばかり歩いた。気比神宮の前に出ると街道から左に折れ、西に向かった。
 古色蒼然とした大きな山門の中央に、〈法蔵寺〉という額が掲げられていた。
 赤や黄色の枯れ葉の散乱した参道が五十メートルほど続いていた。右手は路地裏道で、左手は墓地になっていた。
 薄っすらと積もった落ち葉を音を立てて踏み締め、ショルダーバッグに手をかけ、黙々と歩いた。境内を時折吹き抜ける敦賀湾からの刺すような寒風に背を丸め、コートに両手を突っ込んで、前のめりになっていた。
 駅から三十分近く歩いていた。本堂まで来ると右手に折れ、庫裡に続く細い砂利道を落ち葉を蹴散らすように進んだ。
 庫裡の小さな硝子窓からけたたましいテレビの音声が漏れていた。
 土岐は庫裡の引き戸を開けて土間に入った。大声で叫んだ。ハンチングをぬぎながら庫裡の引き戸を後ろ手で閉め、自宅事務所より一メートルほども高い土間天井の昼の闇を見上げた。外の冷気が遮断され、自分の呼気の暖かさに、ほっとする思いだった。
 出てきたのは四十代らしい恰幅のいい、赤ら顔の坊主だった。土岐は一歩踏み出して名刺を手渡した。坊主は立ったまま太鼓腹の上で、土岐の名刺に見入っている。
「廣川弘毅という人が亡くなったことをご存知ですか?」
 坊主は〈えっ〉というような不意を衝かれた表情をする。坊主は玄関と廊下の境目につま先を立てて座り込んだ。胸と太ももにはさまれた腹が苦しそうだ。土岐は土間に立ったままだった。坊主は軽く目を見開いた。
「いいえ。廣川さんとは大伯母が亡くなってからお付き合いが無くなってしまって」
「大叔母の平田圭子さんと廣川弘毅さんについて何かご存じのことはありませんか?」
「廣川さんとは、先々代の祖父の葬儀のときに一回だけお会いしたことがあるだけで」
「その葬儀のときのスナップ写真のようなものがありませんか?」
と土岐が聞くと、坊主は重そうな腰をゆっくりと浮かせた。
「・・・あると思います。ちょっと時間がかかりますが、ご覧になりますか?」
 土岐がうなずくと坊主は奥に引っ込んだ。待っている間、土岐は周囲を見回しながら、上り框に腰かけた。四、五分して、坊主がスナップ写真を一枚持って現れた。