土岐は廣川弘毅がなぜ死の直前、この小説を読もうとしたのか、その理由を考えていた。この小説を読んだのは単なる偶然だったのか。自らの死とは無関係だったのか。なぜ、わざわざ図書貸出カードまで作って、絶版の小説を読もうとしたのか。
小説の舞台となっている糸魚川と敦賀と京都という地名が気になった。
著者の塔頭哲斗は、あとがきの年譜によれば、福井県の若狭の生まれである。敦賀は同県ではあるが、主人公の昭夫は糸魚川の生まれ、雄蔵は敦賀の生まれとなっている。
糸魚川という地名をどこかに書いた記憶があった。システム手帳をひっくりかして探すと、長田賢治の生地というメモ書きがあった。
長田賢治は見城花江と結婚し、その後、離婚し、一人息子の見城敦は中井愛子と結婚し、その一人娘が見城仁美だ。
小説を塔頭哲斗の自伝的要素の強い作品として読んでいたが、小説の主人公昭夫のモデルは長田賢治と関係があるのかも知れない。
塔頭哲斗はすでに亡くなっている。その確認は長田賢治にとるしかない。
土岐は財布と相談しながら、ゆうちょ銀行の口座に佐藤加奈子からの入金があれば、敦賀と糸魚川へも足を延ばすことを考えていた。
新大阪には一三時すぎに到着した。新大阪から御堂筋線と北大阪急行南北線で終点の千里中央に向かった。千里中央で降りてから坂本茂に電話した。自宅は阪急百貨店の裏手のJ棟の七階の714号室とのことだった。土岐は駅ビルの阪急百貨店で菓子折を購入した。
こんもりとキハダ色に色づいた林の中にその棟はあった。その棟の先に侵食されるように紅葉した緑が公園のように広がっていた。Jというアルファベットが北側の壁に表示されていた。エレベーターで昇り、714号室の前でインターフォンを押すと、べっ甲の老眼鏡をかけた、がたいの大きい、きらめくような白髪の老人がドアノブにもたれかかるようにして出てきた。土岐は玄関の中に入り、名刺を取り出した。
玄関の右手が六畳ほどのフローリングの応接室になっていた。阪急百貨店の袋に入れた菓子折をセンターテーブルの上に置き、応接室の小ぶりの布地のソファーに腰かけた。
「廣川弘毅という人物を覚えておられますか?」
坂本は驚いたように瞳を一回転させた。
「・・・ああ、あのペテン師みたいな人・・・忘れようにも忘れられしまへんわ」
小説の舞台となっている糸魚川と敦賀と京都という地名が気になった。
著者の塔頭哲斗は、あとがきの年譜によれば、福井県の若狭の生まれである。敦賀は同県ではあるが、主人公の昭夫は糸魚川の生まれ、雄蔵は敦賀の生まれとなっている。
糸魚川という地名をどこかに書いた記憶があった。システム手帳をひっくりかして探すと、長田賢治の生地というメモ書きがあった。
長田賢治は見城花江と結婚し、その後、離婚し、一人息子の見城敦は中井愛子と結婚し、その一人娘が見城仁美だ。
小説を塔頭哲斗の自伝的要素の強い作品として読んでいたが、小説の主人公昭夫のモデルは長田賢治と関係があるのかも知れない。
塔頭哲斗はすでに亡くなっている。その確認は長田賢治にとるしかない。
土岐は財布と相談しながら、ゆうちょ銀行の口座に佐藤加奈子からの入金があれば、敦賀と糸魚川へも足を延ばすことを考えていた。
新大阪には一三時すぎに到着した。新大阪から御堂筋線と北大阪急行南北線で終点の千里中央に向かった。千里中央で降りてから坂本茂に電話した。自宅は阪急百貨店の裏手のJ棟の七階の714号室とのことだった。土岐は駅ビルの阪急百貨店で菓子折を購入した。
こんもりとキハダ色に色づいた林の中にその棟はあった。その棟の先に侵食されるように紅葉した緑が公園のように広がっていた。Jというアルファベットが北側の壁に表示されていた。エレベーターで昇り、714号室の前でインターフォンを押すと、べっ甲の老眼鏡をかけた、がたいの大きい、きらめくような白髪の老人がドアノブにもたれかかるようにして出てきた。土岐は玄関の中に入り、名刺を取り出した。
玄関の右手が六畳ほどのフローリングの応接室になっていた。阪急百貨店の袋に入れた菓子折をセンターテーブルの上に置き、応接室の小ぶりの布地のソファーに腰かけた。
「廣川弘毅という人物を覚えておられますか?」
坂本は驚いたように瞳を一回転させた。
「・・・ああ、あのペテン師みたいな人・・・忘れようにも忘れられしまへんわ」


