法蔵飛魂

「・・・と、クライアントは言っている。本当か嘘か分からないが、二年前にクライアントが、抜き打ちであの家を訪ねて行ったときに、金田義明が潜んでいた気配がして、帰りがけに、外で張っていたら、しばらくして出てきたと言うんだ」
「それだけじゃ、できていたことにはならんだろう。佐藤加奈子は内縁だが、実質的には義理の母のような関係にあるわけだし・・・」
「・・・それなら、金田民子が訪ねて行ったときに、隠れている理由がない」
「気配がしたというのなら、とっ捕まえれば、よかったんじゃないか?」
 澤田の目は大きくはないが、くるくるとよく動く。見開いた丸い出目が落ち着きなく動いて土岐の表情から内心をうかがおうとする。
「・・・あのうちの二階の廣川弘毅の寝室、・・・床の間のある部屋、・・・お宅ご存じ?」
「今日、見てきたけど、・・・あんたはいつ見たの?」
「・・・先週、・・・運送屋になり済ましてクライアントと二人で、廣川弘毅の遺品をごっそり運び出した。衣類からアルバムから書籍まで、・・・どれもこれもカネになりそうになかったが、クライアントが『加奈子の浮気の証拠があるかも知れない』って言うんで・・・」
「盗聴器を仕掛けたのはそのときか?」
 澤田は、土岐の問いに答えない。無視して話を続ける。
「・・・廣川弘毅と加奈子の部屋は、隣同士なんだが、半間はさんで襖の扉が二枚ある。どうしてそういう造りになっているのか、よくわからんが、増築した関係かもしれない。床の間の右隣に押入れがあって、その右隣に半間の引き扉がある。それを引いてみると半畳の空間があって、さらに同じような引き扉をあけると加奈子の寝室に出る。その半畳の空間の幅はちょうど押入れと床の間の幅に等しい。クライアントがあの家に行って、廣川弘毅の部屋に行ったとき『金田義明がその半畳の空間に潜んでいたらしい』と言うんだ。要するに、加奈子と義明の関係の客観的な証拠をつかめば、クライアントにとっては、離婚訴訟でも有利になるし、廣川弘毅の遺産相続でも有利になって、一石二鳥ということだ」
「そうすると二人の関係は金田民子にとってそうあってほしいという願望なのかも」
「そうとも言えない。この情報は去年のものだが、加奈子は金田義明とゴルフをしている」
「ゴルフ場にその記録があれば、決定的な証拠になるんじゃないか」