と言って、メモ用紙に登録番号を書き、土岐に手渡した。指の先が土岐の手に触れた。ぞっとするほど冷たかった。
その本は、塔頭哲人のコーナーにあった。
塔頭哲斗は二十年ほど前に肺がんで亡くなっている。
『学僧兵』は塔頭哲斗の出世作で、何かの賞を受賞した作品だ。塔頭哲斗の実体験を基にして書かれている。
土岐は貸出登録証を作成し、その本を借りて図書館を出た。
狭い玄関ロビーのカウンター脇で、見覚えのあるハンチングの男とすれ違った。土岐は踵を返して、その男の肩を後ろから叩いた。土岐がかけた声に、その男は一瞬ぎょっとしたようにして振り返った。
「おれが借りた本を知りたいのだったら、この本だ」
と土岐は借りた本の表紙を見せた。男はとぼける仕草をした。土岐はどすをきかせた。
男は観念したようだ。いかり肩がなで肩になった。どう切り出すか戸惑っている。土岐は男の二の腕を握った。ふにゃけている。
「まあ、同業のよしみで、駅前で一杯どう?・・・情報交換でもしない?」
その言葉に男は乗ってきた。張っていたひじの力をゆるめ、土岐の誘いに応じた。
「・・・同業って、そちらさんも浮気調査で?」
男は土岐の顔色を斜め下からうかがいながら聞いてきた。土岐は名刺を出した。男もポケットから皺の寄った名刺を差し出してきた。使い古しのようだ。なんとなく、薄汚い。〈株式会社大日本興信所 澤田英明〉
とあった。
土岐はその名刺をショルダーバッグの脇ポケットにしまいながら駅前の喫茶店に入った。
澤田は入り口に一番近いテーブルに先に座った。
窓がステンドグラスになっている。
土岐は向かいの椅子に腰かけながら改めて澤田の顔を見た。頭の形がラッキョウのように見えた。両手を耳に当て、口を大きく開けばムンクの〈叫ぶ人〉を彷彿とさせる。この業界では尾行や待ち伏せや張り込みの業務があるので、目立つ顔つきは好ましくない。
澤田は極端に貧相であるがゆえに好ましくない部類に入る。
澤田はラッキョウ頭であたりを見回して、先に話し出そうとした。
そこにGパンをはいた中年のふくよかな女性が注文を取りに来た。
ふたりともホットにした。
店員が去ると澤田は亀のように首をテーブルの上に伸ばし、背中を丸めて、声を低くして言う。
「・・・佐藤加奈子と金田義明の関係、でどうです?で、そちらのネタは?」
その本は、塔頭哲人のコーナーにあった。
塔頭哲斗は二十年ほど前に肺がんで亡くなっている。
『学僧兵』は塔頭哲斗の出世作で、何かの賞を受賞した作品だ。塔頭哲斗の実体験を基にして書かれている。
土岐は貸出登録証を作成し、その本を借りて図書館を出た。
狭い玄関ロビーのカウンター脇で、見覚えのあるハンチングの男とすれ違った。土岐は踵を返して、その男の肩を後ろから叩いた。土岐がかけた声に、その男は一瞬ぎょっとしたようにして振り返った。
「おれが借りた本を知りたいのだったら、この本だ」
と土岐は借りた本の表紙を見せた。男はとぼける仕草をした。土岐はどすをきかせた。
男は観念したようだ。いかり肩がなで肩になった。どう切り出すか戸惑っている。土岐は男の二の腕を握った。ふにゃけている。
「まあ、同業のよしみで、駅前で一杯どう?・・・情報交換でもしない?」
その言葉に男は乗ってきた。張っていたひじの力をゆるめ、土岐の誘いに応じた。
「・・・同業って、そちらさんも浮気調査で?」
男は土岐の顔色を斜め下からうかがいながら聞いてきた。土岐は名刺を出した。男もポケットから皺の寄った名刺を差し出してきた。使い古しのようだ。なんとなく、薄汚い。〈株式会社大日本興信所 澤田英明〉
とあった。
土岐はその名刺をショルダーバッグの脇ポケットにしまいながら駅前の喫茶店に入った。
澤田は入り口に一番近いテーブルに先に座った。
窓がステンドグラスになっている。
土岐は向かいの椅子に腰かけながら改めて澤田の顔を見た。頭の形がラッキョウのように見えた。両手を耳に当て、口を大きく開けばムンクの〈叫ぶ人〉を彷彿とさせる。この業界では尾行や待ち伏せや張り込みの業務があるので、目立つ顔つきは好ましくない。
澤田は極端に貧相であるがゆえに好ましくない部類に入る。
澤田はラッキョウ頭であたりを見回して、先に話し出そうとした。
そこにGパンをはいた中年のふくよかな女性が注文を取りに来た。
ふたりともホットにした。
店員が去ると澤田は亀のように首をテーブルの上に伸ばし、背中を丸めて、声を低くして言う。
「・・・佐藤加奈子と金田義明の関係、でどうです?で、そちらのネタは?」


