法蔵飛魂

 湿度が高くてむっとする地下鉄に揺られながら廣川弘毅と八紘物産の馬田重史、公認会計士の長瀬啓志、一級建築士の船井肇、玉井企画の玉井要蔵の五人が〈開示情報〉という雑誌を媒介として強い利害関係を継続して保持していたという確信を反芻していた。しかし、廣川弘毅が長期にわたり、馬田重史、長瀬啓志、船井肇、玉井要蔵の四人から広告料という形で利益供与を受けていた理由が不明だった。
 
 雨に濡れた廣川邸には五時過ぎに着いた。加奈子が玄関の門燈を灯して待っていた。一週間目の再訪となるが、土岐にはそれ以上の期間が空いているようにも思えた。
 加奈子は土岐の来訪が待ちどうしかったようだった。土岐の欲目には喜色があるように見えた。
 土岐は雨に打たれた折りたたみ傘を玄関に折りたたまずにおいた。
 軽い涙目なのか、加奈子の瞳の中で応接室の照明がきらきらと点滅していた。
 土岐はソファーに腰をおろしながらショルダーバッグから薄水色のクリアファイルを取り出して事前調査報告書を手渡した。
 加奈子の瞳が横書きの事前調査報告書の前で、せわしなく左右の往復運動を繰り返す。唇をキッと結んで、むさぼり読んでいる。
 土岐はその間の手持無沙汰を出されたレモンティで紛らわした。
 加奈子は調査報告書をさっと一通り読み終えて、添付されている調査日誌と請求書をパラパラとめくった。細い指先に塗られたピンクのエナメルが天井のシャンデリアの明かりにきらりと光る。テーブルの上に右手の指を立てて、ピアノを弾くように爪で音を造り、八分の三拍子のリズムをとっている。請求書の金額を幾度も見返している。
 調査継続の契約を結んだ。事前調査の経費と日当と着手金の領収書は口座振り込みを確認してから、送付することにした。
 加奈子が土岐の頭の後ろにある窓にかかっているビロードの臙脂のカーテンに見るともなしに目をやっている。小じわとくすみを消し、肌のたるみを引き延ばせば、確かに美人の部類に入る。時間は残酷だ。
 二人は応接間を出た。出てすぐ左に、階段があった。階段は小さな踊り場で直角に曲がっていた。加奈子の腰の凝脂の真後ろに土岐の蒼黒い顔が続いた。
 階段を上がってまっすぐ廊下を行った突き当たりに一部屋、左側に十畳ほどのフローリングのリビングルーム、その右手に四枚の引き戸があり、その奥が廣川弘毅の部屋だった。