@土岐明様。IR室へのお問い合わせありがとうございます。弊社元社員坂本茂は定年退職後、弊社OB会に所属し、記念事業などに参加する機会があります。なにぶん、個人情報に属することですので、お差支えないようでしたら、土岐様の連絡先を弊社から坂本へお伝えさせていただければ幸甚です。お手数ではありますが、返信メールにて、土岐様の電話番号などの連絡先をお教え願えれば幸いです。神州塗料株式会社IR室・杉田敏子@
 土岐は即座に返信メールで携帯電話番号を送信した。
 その間に、海野の名前で高校に問い合わせたメールの返信が続々と入ってきた。
@海野元治様。お問い合わせの件ですが、長瀬啓志君の旧制神奈川中学校からの進路先は海軍経理学校普通科練習生となっております。終戦間際のことなので、それから先のことは名簿に記載されておりません。十分にはお役には立てなかったことと思われますが、現在のところ分かることは以上です。神奈川高等学校教頭・下條真一@
 土岐は早速海軍経理学校をネット検索して調べてみた。
 海軍経理学校は海軍主計科要員の養成学校であり、日本中の秀才が受験した。これを卒業すると少尉候補生から主計少尉に任官し、武器、弾薬、食糧などの調達を日常業務とし、海軍の予算編成を担当する。従って最前線で戦闘することはなく、その分、戦死する比率が低かった。受験倍率が高かった理由の一つはそこにある。
 長瀬啓志が海軍経理学校を出て、計理士となり、さらに公認会計士となった履歴がこれでつながった。しかし、廣川弘毅との接点がまだ浮かんでこない。廣川弘毅の戦前戦後の履歴を調査しなければ、この二人がどこで交差することになるのか推理はできない。土岐のやらなければならない作業がふえることになった。
 とりあえず、長瀬の海軍経理学校時代の空白を埋めることにした。それによって、廣川弘毅との接点が見出せるかも知れない。
 インターネットで海軍経理学校の同窓会事務所を探し出した。
 校舎は築地にあったようだ。ホームページにメールアドレスがあったので、問い合わせのメールを送信した。
@海軍経理学校同窓会事務所御中。ある殺人事件で捜査している茅場署の海野という者です。大正十四年生まれで旧制神奈川中学を卒業し、普通科練習生になった長瀬啓志氏と親しかった人をご紹介願えれば幸甚です。茅場署警部補・海野元治@