老人は箸と弁当箱を空席になっている碁盤の上に置いた。隣の碁盤をはさんで向かいに座るように土岐にうながした。アルミの弁当箱のふたを閉じ、箸を箸箱にしまって改めて土岐の顔を見上げた。土岐の名刺を眼から離したり、遠ざけたりして見ている。老眼鏡をはずして名刺を鼻にこすりつけるようにして見ている。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            
「・・・土岐調査事務所?・・・何を調査しているの?」
「廣川弘毅の死因を調査しています。事件の疑いがありまして・・・」
「・・・そりゃそうだ、あいつが自殺するわけがない。・・・そんな玉じゃない」
 滑舌がよくないのは入れ歯のせいらしい。高齢にもかかわらず、話には張りがあった。土岐は碁盤の前のスツールに腰かけて、おもわず背筋を伸ばして聞いていた。
「やつが大企業から会費のような金を引き出した源はキャノン機関がらみだとか、M資金関係だとか、軍の隠退蔵物資だとか、いろいろあった」