駅から十五分ほど歩いたところで保木間町会会館に着いた。三階建てのモルタル造りで、廃屋になった縫製工場のような雰囲気があった。薄暗い正面玄関を入ると受付があったが、誰もいない。一階は待合室のような造りで、新聞や雑誌が閲覧できるような長椅子のスペースがあり、全体で十坪ぐらいあった。右わきに階段と身障者用の小さなエレベーターがあり、上の方から人の気配がうかがえた。
あたりに人影を求めながら階段を上って行った。左右の丈夫なステンレスの手すりにつかまりながら、二階に上がると、全フロアが碁会所になっていた。将棋をさしているグループもあった。二〇人ほどのうち三分の一ぐらいの人が弁当やパンを食べながら対局を見物していた。囲碁のグループは八人が対局していた。土岐はそのグループの中で一番階段に近い場所で見物している黒いジャージーの老人に声をかけた。
「すみません。吉野幸三さんはおられますか?」
その老人は怪訝そうな目つきで土岐の顔を見上げると、おにぎりを持った手で、窓際の方を指示した。みるとグレーのジャージーの上にフリースの紅いチョッキを着て、サンダル履きで、左手に弁当箱、右手に箸を持って、ぶつぶつ呟いている皺だらけの老人がいた。歯がないのか、顎がひしゃげている。無精ひげが薄いもみあげとつながり、頭髪が薄茶の苔のように頭皮にへばりついていた。
土岐は近づいて腰を折って声をかけた。
老人は即答しない。いぶかしげに土岐を見上げる。右手の箸が宙に浮いたままだ。入れ歯のせいか、誰何する言葉が大きな飴玉を口の中で転がしているように聞こえる。
土岐は挨拶しながら、名刺を渡した。
あたりに人影を求めながら階段を上って行った。左右の丈夫なステンレスの手すりにつかまりながら、二階に上がると、全フロアが碁会所になっていた。将棋をさしているグループもあった。二〇人ほどのうち三分の一ぐらいの人が弁当やパンを食べながら対局を見物していた。囲碁のグループは八人が対局していた。土岐はそのグループの中で一番階段に近い場所で見物している黒いジャージーの老人に声をかけた。
「すみません。吉野幸三さんはおられますか?」
その老人は怪訝そうな目つきで土岐の顔を見上げると、おにぎりを持った手で、窓際の方を指示した。みるとグレーのジャージーの上にフリースの紅いチョッキを着て、サンダル履きで、左手に弁当箱、右手に箸を持って、ぶつぶつ呟いている皺だらけの老人がいた。歯がないのか、顎がひしゃげている。無精ひげが薄いもみあげとつながり、頭髪が薄茶の苔のように頭皮にへばりついていた。
土岐は近づいて腰を折って声をかけた。
老人は即答しない。いぶかしげに土岐を見上げる。右手の箸が宙に浮いたままだ。入れ歯のせいか、誰何する言葉が大きな飴玉を口の中で転がしているように聞こえる。
土岐は挨拶しながら、名刺を渡した。