と言いながら直子は立ち上がっていた。直子が前かがみになったとき、ボリューム感を出したパーマの髪にスプレーされた香料が土岐の鼻先をかすめた。直子は、グレーのタイトスカートのパンティラインをこれみよがしに土岐に向けてパンプスを履く。
直子が去った後、土岐はドアを力任せに思い切り蹴飛ばした。つま先に鋭い疼痛が走った。腹の虫は多少おさまったが、つま先の痛みが土岐の浅慮を後悔させた。
十一時になっていた。ジャージーを脱いで、デニムパンツとジャケットに着かえていると、携帯電話のメール着信音が聞こえた。
@廣川弘毅の総会屋当時のことを知る人物だが、吉野幸三という元刑事だ。もうぼけているかも知れないが、足立区の保木間に住んでいる。住所は保木間署で聞いてくれ@
メールは海野からだった。メールを読みながら、海野が定年後の就職先について土岐と大野直子に二股をかけていることを確信した。
土岐は保木間署に電話し、定年退職した吉野幸三元刑事の連絡先を聞き出した。教えてくれたのは携帯電話の番号だった。その番号に電話すると老女のだみ声が出てきた。
「・・・あいにく主人は出かけております。町会の会館の碁会所に出かけたんです」
土岐は町会に掛けた。町会の事務員のような老人が咳払いしながら出てきた。
「・・・すんません。いま対局中で・・・」
「それじゃ、お昼頃そちらにお話を聞きに伺うと伝えてください」
土岐は十一時過ぎに蒲田駅から京浜東北線の快速に乗った。北千住で東武伊勢崎線に乗り換え、竹ノ塚で降りた。駅員に保木間の町会会館の場所を聞いた。東口から日光街道に出て交差点を渡った先が保木間になる。バスを使えば数分の所と聞いたが歩くことにした。
駅前はどこにでもあるような際立った特徴のない商店街だった。遠ざかるにつれて安普請の住宅が増えてくる。町工場のような建物や、中継基地の倉庫のような設備があり、ところどころに白い埃をかぶった商店がある。特徴のはっきりしない町だった。住宅街でもないし、工場地帯でもない。
直子が去った後、土岐はドアを力任せに思い切り蹴飛ばした。つま先に鋭い疼痛が走った。腹の虫は多少おさまったが、つま先の痛みが土岐の浅慮を後悔させた。
十一時になっていた。ジャージーを脱いで、デニムパンツとジャケットに着かえていると、携帯電話のメール着信音が聞こえた。
@廣川弘毅の総会屋当時のことを知る人物だが、吉野幸三という元刑事だ。もうぼけているかも知れないが、足立区の保木間に住んでいる。住所は保木間署で聞いてくれ@
メールは海野からだった。メールを読みながら、海野が定年後の就職先について土岐と大野直子に二股をかけていることを確信した。
土岐は保木間署に電話し、定年退職した吉野幸三元刑事の連絡先を聞き出した。教えてくれたのは携帯電話の番号だった。その番号に電話すると老女のだみ声が出てきた。
「・・・あいにく主人は出かけております。町会の会館の碁会所に出かけたんです」
土岐は町会に掛けた。町会の事務員のような老人が咳払いしながら出てきた。
「・・・すんません。いま対局中で・・・」
「それじゃ、お昼頃そちらにお話を聞きに伺うと伝えてください」
土岐は十一時過ぎに蒲田駅から京浜東北線の快速に乗った。北千住で東武伊勢崎線に乗り換え、竹ノ塚で降りた。駅員に保木間の町会会館の場所を聞いた。東口から日光街道に出て交差点を渡った先が保木間になる。バスを使えば数分の所と聞いたが歩くことにした。
駅前はどこにでもあるような際立った特徴のない商店街だった。遠ざかるにつれて安普請の住宅が増えてくる。町工場のような建物や、中継基地の倉庫のような設備があり、ところどころに白い埃をかぶった商店がある。特徴のはっきりしない町だった。住宅街でもないし、工場地帯でもない。