海野の裏切で土岐の頭の中でパチンと何かが弾けた。少し興奮気味に話す自分を抑制できなかった。
「見城仁美はどうやって買収したんですか!」
直子は顔の前で手のひらを大きく左右に振り、激しく否定した。顔の大きな造作と比べると、小ぶりの手だ。大根役者の下手な芝居のような否定の仕方だ。不自然なほど大仰なしぐさに見えた。
土岐は胃の中から不快感がおくびのようにむかむかとこみあげてくるのを感じた。
「見城仁美は最初の証言では殺人現場を見ていたと、海野刑事は言ってましたが・・・」
「・・・そうですか。人の記憶なんて曖昧で、思い込みでゆがむこともあるし、むしろ、後から冷静になって論理的に記憶を構成した方が真実に近いことが多いんです」
土岐のこめかみを、〈強姦でもしてやりたい〉という凶暴な思いがかすめた。
直子はそれを知らぬげに小鼻をひくつかせて、平然と話す。言外に、〈どうですか〉と得意げに言いたげな直子の滑舌によどみがない。頭の動きと舌の動きがシンクロナイズしている。
土岐は興奮気味で、直子と言い合ったら勝ち目がないという自覚から、どもり気味になる自分を苛立たしく感じていた。
「で、ご用件はなんですか?」
土岐はもう一度同じ質問をした。直子は素人芝居のように大げさに肩をすくめた。
土岐は興奮してくる自分を抑えきれなくなっていた。土岐の興奮の高まりに応じて、直子の態度が調子づいて来るように見えた。
「あなたが今作成している報告書をわたしの方で買い取らせていただきたいのです」
直子の言っている意味の真意を理解しようと土岐は彼女の良く動く瞳を覗き込んだ。
「手を引けと言うことですか?」
土岐は怒気を込めて言ったが、直子にたじろぐ様子はない。しらっとしている。
土岐は知らず知らずのうちに直子を睨みつけていた。直子の表情に血の気を帯びてくる土岐におびえるような様子が一瞬見られた。
「誰の指図も受けない。俺は俺のやり方でやる。だからこうして徒党を組まないで一匹狼でやってるんだ。金だけがほしいんだったら、こんな儲からない方法で仕事はしていない」
土岐は本音を言った。大きな直子の目がさらに大きくなっていた。瞳孔が白眼の中央で蠕動している。土岐の剣幕に少し唖然としている様子がうかがえた。
「・・・悪い話ではないと思いますよ。・・・いつでも調査報告書を買い取りますので」
「見城仁美はどうやって買収したんですか!」
直子は顔の前で手のひらを大きく左右に振り、激しく否定した。顔の大きな造作と比べると、小ぶりの手だ。大根役者の下手な芝居のような否定の仕方だ。不自然なほど大仰なしぐさに見えた。
土岐は胃の中から不快感がおくびのようにむかむかとこみあげてくるのを感じた。
「見城仁美は最初の証言では殺人現場を見ていたと、海野刑事は言ってましたが・・・」
「・・・そうですか。人の記憶なんて曖昧で、思い込みでゆがむこともあるし、むしろ、後から冷静になって論理的に記憶を構成した方が真実に近いことが多いんです」
土岐のこめかみを、〈強姦でもしてやりたい〉という凶暴な思いがかすめた。
直子はそれを知らぬげに小鼻をひくつかせて、平然と話す。言外に、〈どうですか〉と得意げに言いたげな直子の滑舌によどみがない。頭の動きと舌の動きがシンクロナイズしている。
土岐は興奮気味で、直子と言い合ったら勝ち目がないという自覚から、どもり気味になる自分を苛立たしく感じていた。
「で、ご用件はなんですか?」
土岐はもう一度同じ質問をした。直子は素人芝居のように大げさに肩をすくめた。
土岐は興奮してくる自分を抑えきれなくなっていた。土岐の興奮の高まりに応じて、直子の態度が調子づいて来るように見えた。
「あなたが今作成している報告書をわたしの方で買い取らせていただきたいのです」
直子の言っている意味の真意を理解しようと土岐は彼女の良く動く瞳を覗き込んだ。
「手を引けと言うことですか?」
土岐は怒気を込めて言ったが、直子にたじろぐ様子はない。しらっとしている。
土岐は知らず知らずのうちに直子を睨みつけていた。直子の表情に血の気を帯びてくる土岐におびえるような様子が一瞬見られた。
「誰の指図も受けない。俺は俺のやり方でやる。だからこうして徒党を組まないで一匹狼でやってるんだ。金だけがほしいんだったら、こんな儲からない方法で仕事はしていない」
土岐は本音を言った。大きな直子の目がさらに大きくなっていた。瞳孔が白眼の中央で蠕動している。土岐の剣幕に少し唖然としている様子がうかがえた。
「・・・悪い話ではないと思いますよ。・・・いつでも調査報告書を買い取りますので」