「実は今年の春に広川さんの紹介で内閣府賞勲局に城田を推薦していただいたんですが、夏ごろに内閣府の方から城田学園が著作権の問題で訴訟を抱えているという理由と昨年設置した会計専門職大学院の入学者数の虚偽報告で文部科学省から行政指導を受けたという理由と国家試験の合格者数を水増しして広報活動に利用したことから経済産業省の是正勧告を受けているという理由で褒章を見合わせるという連絡がありまして、城田が推薦者や賛同者に、それに広川さんにも、だいぶお礼をした関係で多少トラブルがあったようです」
西川の証言から、黒田家の若妻の話を思い出していた。二カ月前、城田邸から廣川が憤
然と出てきた理由はそこにあるのかも知れない。
 真実を究明することなく、土岐は席をたった。秘書という立場上、西川が城田にとって不利な証言をするとは思えなかった。別れ際に土岐は尋ねた。
「相田さんが廣川さんと知り合ったきっかけが,彼女の高校時代のクラスメイトが、廣川さんが証券アナリストの資格試験の勉強をしていたときの先生だったというんですが」
 西川は思い出すように天井の簡素なシャンデリアを見上げた。額に深い三本の皺を作りすぐ、目線をじろりと土岐に戻した。
「そのころは、教職員全員で、百名もいなかったと思うんで。後日でよろしければ、当方で調べて、その結果はお名刺のアドレスに送信差し上げるということでよろしいですか?」
 それを聞いて土岐は安手のラブホテルのような外観の建物の外に出た。

落魄と零落(九月二十九日水曜日)

 翌朝、土岐は8時過ぎに起きると、パジャマ兼普段着の紺のジャージー姿のまま、前日の日誌をワープロで打ち込んだ。電子メールをチェックすると山のような迷惑メールの中に海野からのメールが混じっていた。