「広川さんが校歌を作詞されたころは、わが校はまだ全国展開を始めたばかりで。その後、全国に分校を設置した関係で、広川さんの歌詞にある『千代田の城』はまずいだろうということで、城田が地名を消した歌詞を作詞したという経緯があります」
「作曲された相田貞子さんと城田さんはどういうご関係なんでしょうか?」
この質問にたいして、西川は眼光を土岐に向け、眉間に深いしわを二本寄せた。
「相田先生はわが校の本科生のコーラス部と軽音楽部の顧問をされてまして、城田との関係と言えば、たまにゴルフをする程度だと思いますが。これはまだ企画の段階なんですが、相田先生とはシンガーソングライターサイトの立ち上げでも、ご協力を願っています」
西川は土岐の眼をちらりと見た。土岐という人間の安全性を値踏みしているようだった。西川は、確認するように改めて土岐の名刺に眼を落した。
「相田先生の御提案で、作詞家志望の方と作曲家志望の方と歌手志望の方をウェッブサイトでブロッキングさせようということで、その企画が進行しています」
「その企画に、廣川弘毅さんは参画していなかったんですか?」
「いやあ、あの方は、いまだに歌詞を原稿用紙に万年筆で書くというタイプですから」
土岐は、この企画を相田貞子が話さなかった理由を考えていた。企画の段階だったから
話さなかったのか。しかし廣川弘毅と二人三脚で始めた楽曲ビジネスで電子版から廣川弘毅をはずすとなると廣川弘毅は黙っていなかったはずだ。
 この企画に廣川弘毅が気づいて、相田貞子とひと悶着あったとすれば、相田貞子やその信奉者である長谷川正造や相田貞子の浮気相手だった城田康昭に、廣川弘毅を黙らせようとする動機は十分にある。土岐の正面に座っている西川も、城田の懐刀として廣川弘毅を排除する手助けをした可能性もある。
 土岐は、相田貞子と城田康昭の男女関係に話を戻した。
「新宿とかのフレンチ・レストランで会食することはありませんか?」
「・・・さあ、どうでしょうか?プライベートまでは把握していませんが」
「ごく最近、城田理事長と廣川さんの間に、何かありませんでしたか?」
そこで、西川はあたりをうかがうように声をひそめた。