歩道を歩き、三光ビルに入る。エレベーターホールでボタンを押す。古いエレベーターで二基あるが、呼び出しボタンがコンピュータ制御されていない。上階にあった二基のエレベーターが一斉に下降してくる。移動位置を示す電光の掲示がエレベーターの昇降速度の遅さを示している。待機時間が一分以上あった。乗り込んでから、五階のボタンを押し、閉のボタンを押す。エレベーターはゆっくりと上昇する。五階に到着した時、土岐の腕時計は十二時五十七分を過ぎていた。そこから逆に、茅場町駅の先刻の乗車位置に戻ったが、普通に歩いた限りでは三分では到着しなかった。
念のため、土岐は10番出入口からのルートも確認してみた。距離的にはすこし遠く感じられた。しかし、ホームの混雑のない分、早く歩けることも確かだった。土岐はそのルートを往復した。往復のたびに、〈インサイダー〉とその隣の開示情報社の入っているビルの前を通った。普通に歩いて、片道五分程度の時間を要した。女の足ならそれ以上かかると思われた。
土岐は茅場町から廣川弘毅のお抱え運転手だった武井孝の川崎の自宅に向かった。川崎で下車した時、二時近くになっていた。薄日が差していたが、秋風が冷たく感じられた。武井の自宅は川崎駅東口からバスに乗って三つ目の停留場を降りて、臨港方面の路地にはいったところにある。モルタル造りの町工場の中の工場跡地に小規模のアパートが点在していた。二階建てと三階建てばかりで、高層のアパートは見当たらない。木造のアパートもある。
土岐は路地裏にある人気のない埃っぽい酒屋の前から電話した。無防備な寝ぼけた声がする。土岐は丁重に詫びながら、武井のアパートまでの道を聞きだした。
コンビニのような酒屋で冷蔵の缶ビール6本パックを買って武井のアパートに向かった。その酒屋から一本入った路地の二階建てのアパートの一階中央の部屋の前に小柄な男がグレーのジャージーで立っていた。
土岐は相手に先に挨拶されないように、十メートルほど手前から声をかけた。武井は寝ぐせの付いたふけだらけの頭髪のまま、面倒くさそうに首肯した。
武井は口をとがらせながら、土岐が持参した缶ビールに目を据えてドアを開けた。入ったところがダイニングキッチンで、その奥に六畳間が二部屋見えた。
念のため、土岐は10番出入口からのルートも確認してみた。距離的にはすこし遠く感じられた。しかし、ホームの混雑のない分、早く歩けることも確かだった。土岐はそのルートを往復した。往復のたびに、〈インサイダー〉とその隣の開示情報社の入っているビルの前を通った。普通に歩いて、片道五分程度の時間を要した。女の足ならそれ以上かかると思われた。
土岐は茅場町から廣川弘毅のお抱え運転手だった武井孝の川崎の自宅に向かった。川崎で下車した時、二時近くになっていた。薄日が差していたが、秋風が冷たく感じられた。武井の自宅は川崎駅東口からバスに乗って三つ目の停留場を降りて、臨港方面の路地にはいったところにある。モルタル造りの町工場の中の工場跡地に小規模のアパートが点在していた。二階建てと三階建てばかりで、高層のアパートは見当たらない。木造のアパートもある。
土岐は路地裏にある人気のない埃っぽい酒屋の前から電話した。無防備な寝ぼけた声がする。土岐は丁重に詫びながら、武井のアパートまでの道を聞きだした。
コンビニのような酒屋で冷蔵の缶ビール6本パックを買って武井のアパートに向かった。その酒屋から一本入った路地の二階建てのアパートの一階中央の部屋の前に小柄な男がグレーのジャージーで立っていた。
土岐は相手に先に挨拶されないように、十メートルほど手前から声をかけた。武井は寝ぐせの付いたふけだらけの頭髪のまま、面倒くさそうに首肯した。
武井は口をとがらせながら、土岐が持参した缶ビールに目を据えてドアを開けた。入ったところがダイニングキッチンで、その奥に六畳間が二部屋見えた。