そう言いながら岡田が指さすほうを土岐は振り返った。スケルトンのエレベーターの脇に階段がある。土岐の傍らをサラリーマン風の男たちが幾人もすり抜けて行くが、その階段を利用する者は一人もいない。下のホームから上がってくる者も降りて行く者もその階段とは反対側のエスカレーターを利用している。土岐が階段とエスカレーターとエレベーターを交互に眺めていると駅員が言った。
「その階段はホームからここまで来るのに非常に遠回りになるんで、使う乗客はほとんどいないんです。それにエレベーターもここに上りのエレベーターがあるので、使う乗客は限られていて。・・・だから、あのとき印象に残ったんです」
「どんな老人でしたか?」
「足を引きずるようにして不格好に駆け出て来たのが記憶にあります」
土岐はエレベーター脇の狭い階段を下りて行った。昨夜、見城仁美を尾行した時に使った階段だった。十段ほど降りると異様に広い踊り場に出た。踊り場というよりは通路のような感じだ。二十メートルほど進むと、Uターンしてさらに降りて行く階段がある。階段を降りたところは、ホームの日本橋寄りの端だった。降り切った正面はエスカレーターの底面で、天井から斜めにホームまでのびている。その左右のホームは昇降のエスカレーターの着地面の幅だけせまくなっている。西船橋方面の乗車位置は、階段とエスカレーターの間に一か所、エスカレーター脇の狭い所に一か所、エスカレーターを降りたところに一か所ある。
ホームに、〈ここに立ち止まらないでください〉という注意書きがある。そこは乗車位置だが、狭い。そこに立ち止まって電車を待つと通り抜けができなくなる。
廣川弘毅が転落したのは、最後尾の乗車位置あたりだ。かりに、もうひとりの老人が犯人であるとすれば、その老人は廣川弘毅を線路に突き落としたあと人通りのない無人の階段のほうを駆け上がって逃走したことになる。エレベーターを使用したとするとホームの最後尾まで行く必要がある。エレベーターがちょうど待機していたのならともかく、改札を出るには上りのエスカレーターを駆け上がったほうが早いし、人ごみにまぎれて逆に人目に付かないかも知れない。
「その階段はホームからここまで来るのに非常に遠回りになるんで、使う乗客はほとんどいないんです。それにエレベーターもここに上りのエレベーターがあるので、使う乗客は限られていて。・・・だから、あのとき印象に残ったんです」
「どんな老人でしたか?」
「足を引きずるようにして不格好に駆け出て来たのが記憶にあります」
土岐はエレベーター脇の狭い階段を下りて行った。昨夜、見城仁美を尾行した時に使った階段だった。十段ほど降りると異様に広い踊り場に出た。踊り場というよりは通路のような感じだ。二十メートルほど進むと、Uターンしてさらに降りて行く階段がある。階段を降りたところは、ホームの日本橋寄りの端だった。降り切った正面はエスカレーターの底面で、天井から斜めにホームまでのびている。その左右のホームは昇降のエスカレーターの着地面の幅だけせまくなっている。西船橋方面の乗車位置は、階段とエスカレーターの間に一か所、エスカレーター脇の狭い所に一か所、エスカレーターを降りたところに一か所ある。
ホームに、〈ここに立ち止まらないでください〉という注意書きがある。そこは乗車位置だが、狭い。そこに立ち止まって電車を待つと通り抜けができなくなる。
廣川弘毅が転落したのは、最後尾の乗車位置あたりだ。かりに、もうひとりの老人が犯人であるとすれば、その老人は廣川弘毅を線路に突き落としたあと人通りのない無人の階段のほうを駆け上がって逃走したことになる。エレベーターを使用したとするとホームの最後尾まで行く必要がある。エレベーターがちょうど待機していたのならともかく、改札を出るには上りのエスカレーターを駆け上がったほうが早いし、人ごみにまぎれて逆に人目に付かないかも知れない。