土岐は仁美のアパートの部屋から聞こえてきた男のしゃがれ声を思い出していた。
「見城仁美さんは、一人住まいなんですか?」
「・・・だと、思うんだけど・・・お母さんがいるんだけど、水上の特養にいるみたいで・・・」
ランチが二つ運ばれてきた。まだらに茶髪の中年のウエイトレスが、下腹を膨らませてカチャカチャと音を立てて紙ナプキンの上にナイフとフォークを並べる。
土岐は生唾を飲み、核心にはいった。
「見城さんが先々週の金曜日に地下鉄事故を目撃したことを知っていますか?」
「・・・先々週の金曜日?・・・ああ、・・・あの東西線の人身事故ですか?」
そう言う智子の表情を追う。なんの反応もない。眼が合いそうになって土岐はあわてて少し焦げ目のあるハンバーグの上に目線を落とした。
二人の食事は、なかなか進まなかった。ナイフとフォークを持った手がたびたび停止する。喫茶店にしては、デミグラスソースがたっぷりかかっていて、それなりに美味しいハンバーグのように見えたが、土岐は質問に気をとられていた。智子も慣れない手つきで上品にカットしたハンバーグを右頬に入れたまま、左頬で話していた。
智子は何を言っても同意を求めてくる。土岐はライスをフォークでうまく掬えないことで苛立っていた。フォークの背からライスがぽろぽろとこぼれ落ちる。少しいらつく。
智子はフォークの背に器用にライスを乗せて口に運ぶ。場違いではあるが、上品な食べ方を楽しんでいるように見える。
土岐はライスを思うように掬えない苛立ちを感じながら、海野に見城仁美の家族関係を問い合わせることを考えていた。仁美の他人を無視した突っ慳貪な態度の原因は、彼女の母親にありそうな気がした。それを確認し、そのことを取っ掛かりに仁美の心の中に分け入ることを考えていた。
仁美から廣川弘毅の死が他殺であるという目撃証言を確保できれば、佐藤加奈子の仕事も一件落着する。
見城仁美は時間に正確で、5時の時報とともに帰宅するという話や国内線のボーイフレンドがいたという話や趣味が飛行機のプラモデルを作ることだという話を聞きだしたのを最後に、よく味わうこともせずにランチが終了した。十二時四十分が過ぎていた。智子が腕時計を見ながらそわそわし出した。
土岐は智子を解放した。
「見城仁美さんは、一人住まいなんですか?」
「・・・だと、思うんだけど・・・お母さんがいるんだけど、水上の特養にいるみたいで・・・」
ランチが二つ運ばれてきた。まだらに茶髪の中年のウエイトレスが、下腹を膨らませてカチャカチャと音を立てて紙ナプキンの上にナイフとフォークを並べる。
土岐は生唾を飲み、核心にはいった。
「見城さんが先々週の金曜日に地下鉄事故を目撃したことを知っていますか?」
「・・・先々週の金曜日?・・・ああ、・・・あの東西線の人身事故ですか?」
そう言う智子の表情を追う。なんの反応もない。眼が合いそうになって土岐はあわてて少し焦げ目のあるハンバーグの上に目線を落とした。
二人の食事は、なかなか進まなかった。ナイフとフォークを持った手がたびたび停止する。喫茶店にしては、デミグラスソースがたっぷりかかっていて、それなりに美味しいハンバーグのように見えたが、土岐は質問に気をとられていた。智子も慣れない手つきで上品にカットしたハンバーグを右頬に入れたまま、左頬で話していた。
智子は何を言っても同意を求めてくる。土岐はライスをフォークでうまく掬えないことで苛立っていた。フォークの背からライスがぽろぽろとこぼれ落ちる。少しいらつく。
智子はフォークの背に器用にライスを乗せて口に運ぶ。場違いではあるが、上品な食べ方を楽しんでいるように見える。
土岐はライスを思うように掬えない苛立ちを感じながら、海野に見城仁美の家族関係を問い合わせることを考えていた。仁美の他人を無視した突っ慳貪な態度の原因は、彼女の母親にありそうな気がした。それを確認し、そのことを取っ掛かりに仁美の心の中に分け入ることを考えていた。
仁美から廣川弘毅の死が他殺であるという目撃証言を確保できれば、佐藤加奈子の仕事も一件落着する。
見城仁美は時間に正確で、5時の時報とともに帰宅するという話や国内線のボーイフレンドがいたという話や趣味が飛行機のプラモデルを作ることだという話を聞きだしたのを最後に、よく味わうこともせずにランチが終了した。十二時四十分が過ぎていた。智子が腕時計を見ながらそわそわし出した。
土岐は智子を解放した。