二、三分して、先に智子が現れた。ピンクがかったベージュのワンピースにウッドのネックレスを掛け、大柄のスパンコールのバッグにテニスウエアを詰め、濃茶のウエッジサンダルを履いている。
 やや遅れて、仁美が出てきた。ウエストが少し絞られた柔らかそうな紫のニットに腕を通し、淡いグレーのパンツスタイルにスエードのパンプスを履き、こげ茶のブティックバッグを肩に掛けている。二人とも、カジュアルな感じのいでたちだった。
 流行遅れのラケットを持っているのは土岐だけだった。
 
 ビルの外に出ると、智子がピアスの耳の脇で小さく手を振る。土岐が無視すると智子は不審げに丸い背を向けた。仁美は既にさっさと歩き始めている。土岐は速足で追いかけた。
 仁美は振り向かないで鼻先を突き出すようにして、昂然と歩いている。
 土岐は仁美の背中に話しかけたが、全く反応がない。仁美の横に出た。
 仁美は不意に歩度を速め、急ぎ足で歩きだした。
 土岐は大またで仁美に歩調をあわせた。首都高速道路下の短い橋を渡り、東京証券取引所前を通り、交差点近くのビルの一階から狭い階段を下りて地下一階の書店の脇から茅場町駅に出た。その間、仁美の背中を見ながら歩いた。無言だった。幾度も話しかけようとしたが仁美にはそれを受け付けようとしない透明なバリアが感じられた。10番の改札口で、仁美と一旦別れた。
 仁美は斜めに曖昧に会釈して、定期カードで改札を通った。下りのエスカレーターで沈んで行くのが見えた。それを見届けて、改札口の脇に立ち、プラットフォームのアナウンスに耳を傾注した。西船橋方面のアナウンスはまだない。
 土岐は改札口を通り、エスカレーターとは反対側の階段を駆け下りた。途中、通路のような踊り場があり、最後の階段は西船橋方面の電車の最後尾に出るようになっている。
 土岐がプラットフォームに立つと東葉勝田台直通電車のアナウンスがあった。
 土岐は仁美が同じ乗車位置にいないことを確認した。電車が到着すると、そのまま最後尾の車両に乗った。
 門前仲町と木場を経て東陽町まで十分も要しなかった。