聞きながら貞子は脇机の引き出しから鶯色のスリムなメンソールタバコを出して金色のライターで火をつけた。一服すって煙を吐く。吹かしているだけで、肺までは吸い込んでいない。右ひじを机について、人差し指と中指で細長いタバコを挟んでいる。いまにも消えそうなタバコの先から一筋の紫煙がゆらぎながら立ち上っている。
「・・・あの広告は、廣川さんの依頼で出していました」
「廣川会長とは、どういうお付き合いだったんですか?」
貞子は思い出すように白い石膏ボードの天井を見上げる。アルミサッシの窓から飲食店の入った雑居ビルの谷間を縫って、奇跡のように貞子の富士額に秋の陽光がこぼれ落ちている。淡い赤銅色にぱっと輝いた表情から目元の小じわがにわかに消え二十代にも見えた。
「・・・いまから、二十年近く前かしら、・・・廣川さんが証券アナリストの資格試験の勉強で、日本最大の簿記学校に通っていた頃、高校時代のクラスメイトの紹介で、廣川さんと居酒屋で知り合って、・・・そのクラスメイトはその簿記学校で講師をやっていて、廣川さんがその生徒さんで・・・試験に合格して、最高齢合格者ということで話題になって、その簿記学校のパンフレットに写真が載って、廣川さんってとても義理堅い人で、戦前の日本人という感じで・・・合格させてもらったお礼にその簿記学校に校歌をプレゼントしたいと言うんで、廣川さんの詞にわたしが曲をつけたというご縁です。それを当時の校長、今は理事長で学園長ですが、・・・聞いてもらったら、『買わせていただこう』というので、確か三十万円で買っていただきました。それが、今の仕事を始めるきっかけになりました」
「で、それだけの関係で、雑誌広告を長期にわたって続けられてきたんですか?」
「・・・あの広告は、廣川さんの依頼で出していました」
「廣川会長とは、どういうお付き合いだったんですか?」
貞子は思い出すように白い石膏ボードの天井を見上げる。アルミサッシの窓から飲食店の入った雑居ビルの谷間を縫って、奇跡のように貞子の富士額に秋の陽光がこぼれ落ちている。淡い赤銅色にぱっと輝いた表情から目元の小じわがにわかに消え二十代にも見えた。
「・・・いまから、二十年近く前かしら、・・・廣川さんが証券アナリストの資格試験の勉強で、日本最大の簿記学校に通っていた頃、高校時代のクラスメイトの紹介で、廣川さんと居酒屋で知り合って、・・・そのクラスメイトはその簿記学校で講師をやっていて、廣川さんがその生徒さんで・・・試験に合格して、最高齢合格者ということで話題になって、その簿記学校のパンフレットに写真が載って、廣川さんってとても義理堅い人で、戦前の日本人という感じで・・・合格させてもらったお礼にその簿記学校に校歌をプレゼントしたいと言うんで、廣川さんの詞にわたしが曲をつけたというご縁です。それを当時の校長、今は理事長で学園長ですが、・・・聞いてもらったら、『買わせていただこう』というので、確か三十万円で買っていただきました。それが、今の仕事を始めるきっかけになりました」
「で、それだけの関係で、雑誌広告を長期にわたって続けられてきたんですか?」