土岐はあらためて、そのカラフルなイラスト広告を詳細に見た。素人っぽいキャッチに〈メロディーというチカラ〉とあった。その下に小さなポイントで、稚拙なレタリングで〈メロディーカンパニーとしてアイテイが目指すのはメロディーによる確かな未来〉とキャプションがある。
土岐は、会社の所在地と電話番号をシステム手帳に書き込んだ。所在地は六本木だった。冊子を元の書架に戻した。入館証の紙とバッジを受付の箱の中に置くと、有価証券図書館を出た。アスファルトの道路の上の水たまりを注視すると、時折、雨粒が円を描くのが見えた。
茅場町から日比谷線で六本木に行った。二十分程度を要した。雨は降っていたが、傘をささずに済む程度だった。地上に出て、アマンド横の交差点の交番で、住所を告げて、まだ二十代に見える若い警察官に、〈アイテイ〉という会社の所在を確認した。腕時計を見るとまだ、三時前だった。
青山通りの内側の路地を六本木ヒルズ方向に二、三分歩いて行くと、交番の巡査が言っていた4台しか駐車できないコインパーキングが右手に見えた。その奥の六本木ヒルズ寄りに、〈アイテイ〉という文字が四分音符で挟まれた小さな看板があった。
中古のアメ車の脇にトイレがあり、その隣に事務所のドアがあった。瀟洒な六本木の町には不釣合いなプレハブのような建物だった。ジム所のドアは道路から一段高くなっていて、ドアの前に木製の踏み台のようなものがあった。
土岐が中の様子を伺うように小さくノックすると、驚いたような男の声がした。踏み段を一段上がってドアを開けて中に入ると、三十過ぎの、童顔なら四十近くの、おかっぱ頭の小柄な男が事務机に横座りして土岐を迎えた。眼が病的で飛び出しそうだ。
土岐は胸ポケットから名刺を差し出した。
男は名刺を見ながらいぶかしそうに、潤いがなく干乾びて割れている唇をひねる。そのまま体を反転させて机の小さい引き出しから自分の名刺を取り出した。
〈有限会社アイテイ経理部長 長谷川正造〉
とあった。土岐はそのぺらぺらの名刺に眼を落としたまま聞いた。
「開示情報という雑誌に、御社の広告を毎号頂戴していると思うんですが」
長谷川は土岐の手の中にある自分の名刺に目線を射して、憮然としている。
「どうも、社長じゃなきゃ分からないような話で。とりあえず、用件だけ伺っておきます」
土岐は、会社の所在地と電話番号をシステム手帳に書き込んだ。所在地は六本木だった。冊子を元の書架に戻した。入館証の紙とバッジを受付の箱の中に置くと、有価証券図書館を出た。アスファルトの道路の上の水たまりを注視すると、時折、雨粒が円を描くのが見えた。
茅場町から日比谷線で六本木に行った。二十分程度を要した。雨は降っていたが、傘をささずに済む程度だった。地上に出て、アマンド横の交差点の交番で、住所を告げて、まだ二十代に見える若い警察官に、〈アイテイ〉という会社の所在を確認した。腕時計を見るとまだ、三時前だった。
青山通りの内側の路地を六本木ヒルズ方向に二、三分歩いて行くと、交番の巡査が言っていた4台しか駐車できないコインパーキングが右手に見えた。その奥の六本木ヒルズ寄りに、〈アイテイ〉という文字が四分音符で挟まれた小さな看板があった。
中古のアメ車の脇にトイレがあり、その隣に事務所のドアがあった。瀟洒な六本木の町には不釣合いなプレハブのような建物だった。ジム所のドアは道路から一段高くなっていて、ドアの前に木製の踏み台のようなものがあった。
土岐が中の様子を伺うように小さくノックすると、驚いたような男の声がした。踏み段を一段上がってドアを開けて中に入ると、三十過ぎの、童顔なら四十近くの、おかっぱ頭の小柄な男が事務机に横座りして土岐を迎えた。眼が病的で飛び出しそうだ。
土岐は胸ポケットから名刺を差し出した。
男は名刺を見ながらいぶかしそうに、潤いがなく干乾びて割れている唇をひねる。そのまま体を反転させて机の小さい引き出しから自分の名刺を取り出した。
〈有限会社アイテイ経理部長 長谷川正造〉
とあった。土岐はそのぺらぺらの名刺に眼を落としたまま聞いた。
「開示情報という雑誌に、御社の広告を毎号頂戴していると思うんですが」
長谷川は土岐の手の中にある自分の名刺に目線を射して、憮然としている。
「どうも、社長じゃなきゃ分からないような話で。とりあえず、用件だけ伺っておきます」