「いいかい。これから、このサイコロを振る。よおく、見といてくれ。もし、偶数が出たら、黙ってここで、この百万円を受け取って、おじいさんに渡してくれ。『糸魚川の店にある掛け軸でも壺でも、なんでもいいから百万円分売ってくれ』と伝えてくれ。もし、奇数が出たら、これまでのことは一切なかったことにしよう。ぼくは、ぼくの依頼人の佐藤加奈子のために民事で勝訴を得るために全力を尽くす。君は君で君のやりたいようにしてくれ。君の周りからぼくは完全に消え去ろう。・・・いいね」
と言いながら土岐は、仁美の瞳を覗き込んだ。
仁美は土岐の言っている意味を理解できないようで、うろたえている。
「・・・そんな・・・」
と言うのがやっとのようだった。
「よし、サイコロを振るぞ」
と言って、土岐は中腰になって、傍らの窓を開けた。右の掌の中にサイコロを封じ込め、軽く振る。カチカチと二つのサイコロが触れ合う音がする。窓外には兜町の闇だけがうごめいていた。
土岐は窓の外の暗夜に向かって、思いっきり、サイコロを投げつけた。投げる手に、打算に流されやすい自らの生き方を戒める思いも込められていた。
サイコロが道路に落ちて、かすかにカチンカチンと軽く乾いた音が聞こえてきた。遠くから、大通りを駆け抜ける自動車の排気音が聞こえてくる。
仁美は、いま走って来たかのような荒い吐息をもらしている。首をのばして、土岐が投げつけた暗闇の方角に眼を凝らしている。
冷たい夜気が窓から徐々に侵入してきた。土岐はぞくっとして、おもむろに窓を閉じた。
「どう、サイコロの目を見に行くかい?」
仁美は黙って土岐の顔を凝視する。土岐も仁美の眼を凝視する。土岐の本心を教えてくれと訴えている眼だ。
土岐はまどう思いを断ち切るように自信ありげに言う。
「ぼくは、サイコロの目は偶数だと確信する。・・・君はどう?」
仁美は黙っている。今にも泣きだしそうな目で土岐の次の言葉を待っている。
仁美の潤みかけた眼を覗き込みながら土岐は言う。
「自分の運命のサイコロの目は自分で造るものだ。相手や周囲に流されていたらきっと後悔する。自分の選んだ道の結果がどうであれ、自分で選んだことに意味がある。自分で選んだことに責任を持てば、たとえ結果がどうなろうとも、後悔することは絶対にあり得ない。・・・君も偶数だと思う?」
と言いながら土岐は、仁美の瞳を覗き込んだ。
仁美は土岐の言っている意味を理解できないようで、うろたえている。
「・・・そんな・・・」
と言うのがやっとのようだった。
「よし、サイコロを振るぞ」
と言って、土岐は中腰になって、傍らの窓を開けた。右の掌の中にサイコロを封じ込め、軽く振る。カチカチと二つのサイコロが触れ合う音がする。窓外には兜町の闇だけがうごめいていた。
土岐は窓の外の暗夜に向かって、思いっきり、サイコロを投げつけた。投げる手に、打算に流されやすい自らの生き方を戒める思いも込められていた。
サイコロが道路に落ちて、かすかにカチンカチンと軽く乾いた音が聞こえてきた。遠くから、大通りを駆け抜ける自動車の排気音が聞こえてくる。
仁美は、いま走って来たかのような荒い吐息をもらしている。首をのばして、土岐が投げつけた暗闇の方角に眼を凝らしている。
冷たい夜気が窓から徐々に侵入してきた。土岐はぞくっとして、おもむろに窓を閉じた。
「どう、サイコロの目を見に行くかい?」
仁美は黙って土岐の顔を凝視する。土岐も仁美の眼を凝視する。土岐の本心を教えてくれと訴えている眼だ。
土岐はまどう思いを断ち切るように自信ありげに言う。
「ぼくは、サイコロの目は偶数だと確信する。・・・君はどう?」
仁美は黙っている。今にも泣きだしそうな目で土岐の次の言葉を待っている。
仁美の潤みかけた眼を覗き込みながら土岐は言う。
「自分の運命のサイコロの目は自分で造るものだ。相手や周囲に流されていたらきっと後悔する。自分の選んだ道の結果がどうであれ、自分で選んだことに意味がある。自分で選んだことに責任を持てば、たとえ結果がどうなろうとも、後悔することは絶対にあり得ない。・・・君も偶数だと思う?」


