確かに貞子の化粧は厚いが、目鼻立ちが整っているから、化粧映えするのだと土岐は見ていた。
「・・・ありがとう。でもそれから、ずっと、こんなはずじゃない、こんなはずじゃない、の繰り返し・・・その奥に秘めたる力を見出したいけど、わたしにはもう何もない」
土岐は貞子の瞳を凝視した。何かあったのかもしれない。ひどく疲れているように見えた。しかし、土岐は言うべきことは言わなければならないという思いだった。
「あなたは、廣川弘毅と二人三脚で仕事をしている間に、廣川弘毅のパシリをしている金井泰三と親しくなって、廣川弘毅を排除しようと、金井を焚きつけたでしょう」
「・・・金井さんは一緒に仕事をしていたので知っているけど、そんな殺人教唆じみたことはしていません」
再び、土岐の背後で長谷川の事務椅子が激しく軋んだ。
土岐は一呼吸置いてから話を続けた。
「もちろん、あなたは犯罪者ではない。でも、廣川弘毅を排除したいという思いを金井にに匂わせた。金井はそれを察知した。意図的に殺害しようと思わなくても、きっかけさえあれば、そうしてもおかしくないように、金井のマインドをコントロールした。廣川弘毅の排除という点では、あなたと金井の利害は一致している。金井は金田民子とあなたに二股をかけていたんだ。どっちもうまくいけば金になる」
と土岐がそこまで話したときに、長谷川が土岐の背後に立ち上がった。
「・・・すいません、そろそろ授業の準備をしますので、お帰り願いますか?」
長谷川の声が怒りに震えていた。
貞子は不貞腐れたように、メンソール煙草をふかしつづけている。
土岐は辞す時と悟った。
六本木の貞子と別れ、茅場町の兜テニスクラブに着いたのは六時過ぎだった。ロッカーに百万円をしまった。ビジターフィー―を支払ってコートに出た。
朝方の雨のせいかコートがまだ湿っぽい。
厚化粧の双葉智子が屈託のない声をかけてきた。
「・・・まあ、時山さん。おひさしぶり」
妙になれなれしい。土岐が手首の関節を回し始めると、リストサポーターをはめながら、近くに寄って来た。
「・・・あなた、本当は土岐さんって言うんでしょ?仁美に全部聞いたわよ」
「全部って?」
「・・・仁美のストーカーやってること」
そう言いながら、目を細めてコートに入って来た仁美に胸のあたりで小さく手を振る。
「・・・ありがとう。でもそれから、ずっと、こんなはずじゃない、こんなはずじゃない、の繰り返し・・・その奥に秘めたる力を見出したいけど、わたしにはもう何もない」
土岐は貞子の瞳を凝視した。何かあったのかもしれない。ひどく疲れているように見えた。しかし、土岐は言うべきことは言わなければならないという思いだった。
「あなたは、廣川弘毅と二人三脚で仕事をしている間に、廣川弘毅のパシリをしている金井泰三と親しくなって、廣川弘毅を排除しようと、金井を焚きつけたでしょう」
「・・・金井さんは一緒に仕事をしていたので知っているけど、そんな殺人教唆じみたことはしていません」
再び、土岐の背後で長谷川の事務椅子が激しく軋んだ。
土岐は一呼吸置いてから話を続けた。
「もちろん、あなたは犯罪者ではない。でも、廣川弘毅を排除したいという思いを金井にに匂わせた。金井はそれを察知した。意図的に殺害しようと思わなくても、きっかけさえあれば、そうしてもおかしくないように、金井のマインドをコントロールした。廣川弘毅の排除という点では、あなたと金井の利害は一致している。金井は金田民子とあなたに二股をかけていたんだ。どっちもうまくいけば金になる」
と土岐がそこまで話したときに、長谷川が土岐の背後に立ち上がった。
「・・・すいません、そろそろ授業の準備をしますので、お帰り願いますか?」
長谷川の声が怒りに震えていた。
貞子は不貞腐れたように、メンソール煙草をふかしつづけている。
土岐は辞す時と悟った。
六本木の貞子と別れ、茅場町の兜テニスクラブに着いたのは六時過ぎだった。ロッカーに百万円をしまった。ビジターフィー―を支払ってコートに出た。
朝方の雨のせいかコートがまだ湿っぽい。
厚化粧の双葉智子が屈託のない声をかけてきた。
「・・・まあ、時山さん。おひさしぶり」
妙になれなれしい。土岐が手首の関節を回し始めると、リストサポーターをはめながら、近くに寄って来た。
「・・・あなた、本当は土岐さんって言うんでしょ?仁美に全部聞いたわよ」
「全部って?」
「・・・仁美のストーカーやってること」
そう言いながら、目を細めてコートに入って来た仁美に胸のあたりで小さく手を振る。


