「・・・そう、あなたのゆう通り。最初は、興味本位で、母が復讐したいと思う老人がどんな人物か確認しようとしたの。あのころはまだインターネットが普及してなくって、電話局で調べたら自宅の電話番号が分かって、昼間自宅にかけてみたら、開示情報社の住所と電話番号が分かって、開示情報社に問い合わせたら、城田簿記学校の証券アナリスト講座に行っているというので、城田簿記学校に連絡したら、曜日と時間が分かって、・・・『私も証券アナリスト試験を受験してみたい』だなんて嘘ついて・・・実際に会ってみたら、お金持ちで、インテリで、作詞家で、顔が広くて、・・・60過ぎの男なんて、生理的に無理かと思っていたけれど、そうでもなかったわ。それほどの嫌悪感もなかったし・・・最後まで、わたしが近づいたわけを知らなかったみたい」
「やはり、ミイラ取りがミイラになったということか。しかし、だんだん老醜が嫌悪感を抱かせるようになった・・・」
と言う土岐の言葉を貞子は無視する。
「・・・あの頃は何をやってもうまくいくような気がしていて・・・信じられないほどもてて・・・しばらくするとそれが当たり前に思えて、・・・中学生のころ胸ペチャで、年上の男には全く相手にされなかった頃が嘘のようで・・・あの頃はデートの時間割を作ったほど。付き合っていた男が、いつも五、六人いたかしら。おまけに、音楽賞で新人賞ももらって、できないことは、何にもないような錯覚を抱いてて、・・・言い寄ってくる男たちを袖にするのが大変だった。でも、それがワーズワースの『草原の輝き、花の栄光』だと気づいたのはずっとあとのことで・・・今思えば、あのときがわたしのピークだったのね。きっと鼻持ちならない女だとみんな思っていたかもしれないけれど、誰もそう言う人はいなかったわ。織田信長みたいにどうせ、どこかで、いつか挫折すると見ていたのかもね。『花の命は短くて』・・・林芙美子ほど『苦しきことのみ』でもなかったけど・・・二十代も、三十代も、終わってしまえば、早いもの。もう、永遠に戻らない」
「そうでもないですよ、今でもとてもお綺麗ですよ」
と言いながら、土岐は右目の隅で長谷川の表情を伺っていた。〈今でも〉と言ってしまったことを少し後悔した。
長谷川は笑いかけて、その苦い笑いをかみつぶした。
「やはり、ミイラ取りがミイラになったということか。しかし、だんだん老醜が嫌悪感を抱かせるようになった・・・」
と言う土岐の言葉を貞子は無視する。
「・・・あの頃は何をやってもうまくいくような気がしていて・・・信じられないほどもてて・・・しばらくするとそれが当たり前に思えて、・・・中学生のころ胸ペチャで、年上の男には全く相手にされなかった頃が嘘のようで・・・あの頃はデートの時間割を作ったほど。付き合っていた男が、いつも五、六人いたかしら。おまけに、音楽賞で新人賞ももらって、できないことは、何にもないような錯覚を抱いてて、・・・言い寄ってくる男たちを袖にするのが大変だった。でも、それがワーズワースの『草原の輝き、花の栄光』だと気づいたのはずっとあとのことで・・・今思えば、あのときがわたしのピークだったのね。きっと鼻持ちならない女だとみんな思っていたかもしれないけれど、誰もそう言う人はいなかったわ。織田信長みたいにどうせ、どこかで、いつか挫折すると見ていたのかもね。『花の命は短くて』・・・林芙美子ほど『苦しきことのみ』でもなかったけど・・・二十代も、三十代も、終わってしまえば、早いもの。もう、永遠に戻らない」
「そうでもないですよ、今でもとてもお綺麗ですよ」
と言いながら、土岐は右目の隅で長谷川の表情を伺っていた。〈今でも〉と言ってしまったことを少し後悔した。
長谷川は笑いかけて、その苦い笑いをかみつぶした。


