法蔵飛魂

「廣川弘毅の奥さんは、三田法蔵を死ぬほど愛していたんです。戦後、農地解放で実家の法蔵寺のやりくりが大変になり、廣川弘毅に特攻死だと知らされて、いやいや結婚したんです。彼女としてみれば、電話で真実を知って、廣川弘毅がなんで、三田法蔵の事故死を特攻死と嘘をついたか、問い詰めたでしょう。廣川弘毅は三田法蔵殺害に加担していたから真相は言えなかった。本当は事故死だったと言ったところで、嘘をついたという事実は変わらない。女の直感で、廣川弘毅の犯罪に気づいたのかもしれない。それが、自殺の理由です」
「・・・でも、母は子供の頃、廣川さんの奥さんには可愛がってもらっていたみたいで、自殺に追い込むようなことは伝えなかったと思いますけど・・・」
「それは、そうかもしれない。しかし、真相は伝えなければという思いだったのかもしれない。だから、あなたのお母さんは、あなたを使って廣川弘毅に復讐を謀ったんでしょう」
「・・・まさか」
と貞子が強く言ったときに、土岐の背後で、長谷川が事務椅子の足を軋ませた。
 土岐は穏やかに聞いた。
「廣川弘毅にはあなたの方から接近した。城田簿記学校で廣川弘毅を教えた講師が高校時代のクラスメイトだったというのは嘘だ。あなたは廣川弘毅を教えた講師に廣川弘毅を紹介させた。・・・しかし、あなたにとって、廣川弘毅は直接の怨恨の対象でないから、ミイラ取りがミイラになった」
「・・・どうして、そんなふうに、お話を作るのかしら」
「これは、城田簿記学校の理事長の秘書の西川秀介氏を通じて確認している」
と土岐はかまをかけて、貞子の表情を追った。
「・・・でも、かれはあの当時、アルバイトだったから、いまは城田簿記学校とは縁がないはずで、・・・だから確認も取れないはずだけど・・・」
「いや、連絡が取れたんです。篠原正弘という税理士です。今、池袋で事務所を開いています。あなたが出た高校は女子高だったという確認も取れている。いや、かれは中学校か小学校のクラスメイトだったと言い直しますか」
 貞子が静かに笑った。観念したようだった。穏やかな表情に変わった。