「・・・法雄さんの骨壺を預けて、永代供養料を納めた後は、行ってないようです。母が行かないんで、わたしも一度も行ったことはないです。母も中村家に嫁いでいるし、・・・それに、先代の住職の印象がとても悪かったようです」
聞きながら土岐は法蔵寺の本堂に掛けられていた〈南無阿弥陀仏〉の掛け軸を思い出していた。その掛け軸が先代の住職の遺品の中から出てきたと、今の住職が語っていた。先々代の住職が本堂に掛けていたものを先代の住職が三田法蔵に対する過去の嫉妬から本堂に掛けるのをやめて退蔵していたのかも知れない。三田法蔵の骨壺を志茂家の墓所に納骨しなかったのも嫉妬のなせる業だったのかもしれない。先代の住職は向島で廣川弘毅の接待を受けていたから、そのことは廣川弘毅の妻である姉の圭子には教えなかった。姉の圭子が三田法蔵を愛していたことは知っていたから、姉が悲しむと思われることは伏せていた。
土岐の目の隅に大口を開けて貞子の話に聞き入っている長谷川の茫然とした顔が見えた。机の上にコンビニ弁当が並べられているが、手をつけていない。
土岐は話題を変えた。
「当然、お母さんは、廣川弘毅の奥さんを御存知ですよね」
「・・・ええ、私は会ったことはないんですが、女の母の目にも吸い込まれるような美人だったらしいです」
「だから、電話したんですか?」
「・・・電話?・・・だれが?だれに?」
「あなたのお母さんが、廣川弘毅の奥さんに・・・」
と言いながら土岐は、廣川浩司が白金台高校の狭隘な応接室で、〈自分が高校生のときに、かかって来た電話が原因で母圭子が死んだ〉という話をしていたことを思い出していた。同時に、向島の置屋波屋で市松が、〈中井和子が中井愛子の小学校入学を廣川弘毅に電話で伝えようとしたとき、圭子が出てきたようだ〉という仄聞を漏らしたことも思い出した。
貞子は思い出そうとする風情もなく答えた。
「・・・それは、知りません」
「でも、三田法蔵が特攻死ではなかったと教えたんじゃないんですか?」
「・・・さあ」
「そのことを電話で伝えられて、廣川弘毅の奥さんは自殺したんですよ」
「・・・どうして、そのことが自殺の原因になるんです?」
聞きながら土岐は法蔵寺の本堂に掛けられていた〈南無阿弥陀仏〉の掛け軸を思い出していた。その掛け軸が先代の住職の遺品の中から出てきたと、今の住職が語っていた。先々代の住職が本堂に掛けていたものを先代の住職が三田法蔵に対する過去の嫉妬から本堂に掛けるのをやめて退蔵していたのかも知れない。三田法蔵の骨壺を志茂家の墓所に納骨しなかったのも嫉妬のなせる業だったのかもしれない。先代の住職は向島で廣川弘毅の接待を受けていたから、そのことは廣川弘毅の妻である姉の圭子には教えなかった。姉の圭子が三田法蔵を愛していたことは知っていたから、姉が悲しむと思われることは伏せていた。
土岐の目の隅に大口を開けて貞子の話に聞き入っている長谷川の茫然とした顔が見えた。机の上にコンビニ弁当が並べられているが、手をつけていない。
土岐は話題を変えた。
「当然、お母さんは、廣川弘毅の奥さんを御存知ですよね」
「・・・ええ、私は会ったことはないんですが、女の母の目にも吸い込まれるような美人だったらしいです」
「だから、電話したんですか?」
「・・・電話?・・・だれが?だれに?」
「あなたのお母さんが、廣川弘毅の奥さんに・・・」
と言いながら土岐は、廣川浩司が白金台高校の狭隘な応接室で、〈自分が高校生のときに、かかって来た電話が原因で母圭子が死んだ〉という話をしていたことを思い出していた。同時に、向島の置屋波屋で市松が、〈中井和子が中井愛子の小学校入学を廣川弘毅に電話で伝えようとしたとき、圭子が出てきたようだ〉という仄聞を漏らしたことも思い出した。
貞子は思い出そうとする風情もなく答えた。
「・・・それは、知りません」
「でも、三田法蔵が特攻死ではなかったと教えたんじゃないんですか?」
「・・・さあ」
「そのことを電話で伝えられて、廣川弘毅の奥さんは自殺したんですよ」
「・・・どうして、そのことが自殺の原因になるんです?」


