後ろめたいものを持ちながら、その重さの微妙なバランスを保ちながら、このまま、忘れて行くのが、現時点での最適行動ではないのか?・・・もっともあんたに、そういうことを超越するようなスパーヒーローのような正義感でもあれば別だが・・・あんたはどうだか知らんが、おれはそういう英雄的な行動とは、縁を持たない心の世界でこれまで生きてきた。警察官になったのは、職業そのものが善だから、世渡りに便利だと思った程度のことだ。おれ自身は自分で言うのもなんだが、善ではない。そういう意味では、本当は医者になりたかったのだが、学力が言うことを聞いてくれなかった。おれにはもう、この事件を徹底的に解明しようという打算を超えた気力が残っていない。金井泰三を自由に泳がせていることについても、耳垢が詰まっている程度にしか感じていない。害者の廣川弘毅にも寸毫の同情も感じていない。年も年だし、奴のこれまでやって来たことを調べてみたら、自業自得以外の言葉が見つからない。いずれにしても民事で勝てば、廣川弘毅の遺産の一部が中井愛子に渡ることなる。そうなれば、彼女の老後は安泰だろう。見城仁美にもやっと人並みの青春が訪れるということになるかも知れない」
土岐は海野の話を聞くだけで疲労困憊した。
別れ際に海野が情報を提供してくれた。
「・・・例の、中村貞江の件だが・・・」
土岐は座り直した。
「何か分かりましたか?」
「・・・巣鴨署の地域課に調べさせた。転出届が出ていて、港区広尾に転出している。超高級マンションに転入している。戸主は相田貞子だ。相田貞子の扶養家族になっている」
「えっ、相田貞子と同居しているんですか。ということは、母娘ということですか」
「・・・そういうことだ」
「そうだったんですか!でも、なぜ、相田貞子の母親が、三田法蔵の骨壷を持って行ったんでしょうか」
土岐は急いで〈インサイダー〉の勘定を済ませた。別れの挨拶もせずに外に飛び出した。
土岐は茅場町駅から地下鉄銀座線で六本木駅に向かった。長瀬啓志が住む超高級マンションのある八丁堀駅、次の築地、東銀座、銀座、日比谷、霞が関、神谷町駅を経ながら、六本木の音楽事務所に貞子がいることを祈った。その祈りが通じた。
貞子は事務所に一人でいた。
長谷川は見当たらなかった。
土岐を見て、貞子は両腕を胸の前で組んで、模写されたモナリザのように微笑んだ。
土岐は海野の話を聞くだけで疲労困憊した。
別れ際に海野が情報を提供してくれた。
「・・・例の、中村貞江の件だが・・・」
土岐は座り直した。
「何か分かりましたか?」
「・・・巣鴨署の地域課に調べさせた。転出届が出ていて、港区広尾に転出している。超高級マンションに転入している。戸主は相田貞子だ。相田貞子の扶養家族になっている」
「えっ、相田貞子と同居しているんですか。ということは、母娘ということですか」
「・・・そういうことだ」
「そうだったんですか!でも、なぜ、相田貞子の母親が、三田法蔵の骨壷を持って行ったんでしょうか」
土岐は急いで〈インサイダー〉の勘定を済ませた。別れの挨拶もせずに外に飛び出した。
土岐は茅場町駅から地下鉄銀座線で六本木駅に向かった。長瀬啓志が住む超高級マンションのある八丁堀駅、次の築地、東銀座、銀座、日比谷、霞が関、神谷町駅を経ながら、六本木の音楽事務所に貞子がいることを祈った。その祈りが通じた。
貞子は事務所に一人でいた。
長谷川は見当たらなかった。
土岐を見て、貞子は両腕を胸の前で組んで、模写されたモナリザのように微笑んだ。


