「刑事告発しようと思うモチベーションはないんですが、何となくもやもやしたものが」
「・・・殺人犯を野放しにしていいのか、てえことか?」
「いやあ、正義の味方を標榜するほど清く正しい人生を生きてきたというわけじゃないんで・・・そんなことは、おこがましくって、つゆほども考えてはいないんですが・・・」
「・・・じゃあ、なんだ?」
「あとで、ぼくや仁美に累が及ばないかと・・・」
「・・・なあんだ、保身か」
「保身と言われればそうかも・・・と言うか、このままでいることが最適な選択かどうか、良くわからないもので・・・」
「・・・おれだって、わかりゃしない。そんなことは、後になって分かるものだ。その時々でしてしまったことが、その人間にとってのその時の最適行動ということだ。人間はそういう風にできている。そのことが後になって不都合になっても、過去を変えることはできない。その責任はどうしたって、とらざるを得ない。それでいいじゃないか。かりに民事裁判でそのことが明らかになれば、マスコミが騒ぎだして、警察が動き出すことになるかも知れない・・・しかし、それはおれが定年になった後の話だ。それでいいじゃないか。おれたちがリスクを冒して、柄にもなく正義の鉄槌を下すまでもないだろう。おれたちは取るに足らない一般ピープルだ。ヒーローでもなんでもない。それに金井泰三は根っからの性悪だ。おれの手にも、あんたの手にもおえる奴じゃない」
海野は深いため息を吐いた。
土岐もしばらく黙りこくった後、コーヒーを一口飲むと、思い出したように話し出した。
「示談が成立しなかった場合、保険の裁判の方はどうなるんでしょうかね?」
「・・・佐藤加奈子はカネが欲しいんだから示談でカネが入ってくるんだったら応じるだろう。保険金は満額支払われるが、訴訟費用の分担でもめる可能性があるかも知れない。示談となれば、宇多弁護士は吹っかけてくるだろうし、USライフの背後の人間がジャーナリズムネタにしたくないと思っていることを知れば、あの悪徳弁護士は相手の足元を見て、示談がこじれる可能性がなくもない。万が一、裁判が始まったとしても、保険屋の大野直子の切り札は見城仁美の目撃証言だから、仁美が証言を翻せば、それで終わりだ」
「保険会社の上告はないでしょうか?」
「・・・殺人犯を野放しにしていいのか、てえことか?」
「いやあ、正義の味方を標榜するほど清く正しい人生を生きてきたというわけじゃないんで・・・そんなことは、おこがましくって、つゆほども考えてはいないんですが・・・」
「・・・じゃあ、なんだ?」
「あとで、ぼくや仁美に累が及ばないかと・・・」
「・・・なあんだ、保身か」
「保身と言われればそうかも・・・と言うか、このままでいることが最適な選択かどうか、良くわからないもので・・・」
「・・・おれだって、わかりゃしない。そんなことは、後になって分かるものだ。その時々でしてしまったことが、その人間にとってのその時の最適行動ということだ。人間はそういう風にできている。そのことが後になって不都合になっても、過去を変えることはできない。その責任はどうしたって、とらざるを得ない。それでいいじゃないか。かりに民事裁判でそのことが明らかになれば、マスコミが騒ぎだして、警察が動き出すことになるかも知れない・・・しかし、それはおれが定年になった後の話だ。それでいいじゃないか。おれたちがリスクを冒して、柄にもなく正義の鉄槌を下すまでもないだろう。おれたちは取るに足らない一般ピープルだ。ヒーローでもなんでもない。それに金井泰三は根っからの性悪だ。おれの手にも、あんたの手にもおえる奴じゃない」
海野は深いため息を吐いた。
土岐もしばらく黙りこくった後、コーヒーを一口飲むと、思い出したように話し出した。
「示談が成立しなかった場合、保険の裁判の方はどうなるんでしょうかね?」
「・・・佐藤加奈子はカネが欲しいんだから示談でカネが入ってくるんだったら応じるだろう。保険金は満額支払われるが、訴訟費用の分担でもめる可能性があるかも知れない。示談となれば、宇多弁護士は吹っかけてくるだろうし、USライフの背後の人間がジャーナリズムネタにしたくないと思っていることを知れば、あの悪徳弁護士は相手の足元を見て、示談がこじれる可能性がなくもない。万が一、裁判が始まったとしても、保険屋の大野直子の切り札は見城仁美の目撃証言だから、仁美が証言を翻せば、それで終わりだ」
「保険会社の上告はないでしょうか?」


