「・・・たぶん・・・民事の方は示談でもみ消す方針だろう。あの大野のねえちゃんがまたしゃしゃり出てくるかも知れない。・・・あんたらが提訴したら、裁判にかける前か、裁判長の和解勧告が出る前に、示談に持ち込もうとするだろう。長瀬が恐れているのは、この件が週刊誌やワイドショーのネタになることだ。廣川弘毅の殺害以外、すべてが時効の彼方とはいえ、雑誌やテレビで取り上げられた途端、長瀬の褒章は宙に消える。裁判で審理が行われて、ジャーナリズムに傍聴されることは避けたいはずだ。保険金の支払い自体は、USライフ全体にとっては大した金額ではない。・・・とすると、一番割りを食うのは東京メトロということになるのかな。USライフと殺人で示談が成立したとなれば、賠償金請求を引っ込めるざるをえないだろう」
「賠償金を請求できなくなりますね」
「・・・そうだが、・・・だからといって、東京メトロが遺族相手に、廣川弘毅の自殺を立証して、賠償請求する訴訟を起こすことは考えられない」
「そうでしょうね。そんな話は聞いたことがないですね」
そう相槌を打って電話を切った後、土岐は札束を事務机の抽斗の中に隠し、鍵をかけた。これだけの現金を手にするのは久しぶりのことだった。
午後三時になるまで、ぼんやりとテレビを見ていた。これからどうするか考えたが、思いが空回りするばかりで、考えがまとまらない。とりあえず、テニスウエアに着替え、午後三時すぎにラケットケースの中に百万円を入れて、自宅事務所を出た。
朝方降っていた雨は止んでいた。用心のため折りたたみ傘をラケットケースにしのばせた。
茅場署に着いたのは四時過ぎだった。受付で海野を呼び出すと、数分してつま楊枝を咥えて玄関ロビーに出てきた。相変わらず、臭い。髪がボサボサだ。
「ちょっと、よろしいですか?」
と土岐が言うと、海野は顎で外に出るように指示した。
署の建物の外に出ると、
「・・・なんだ」
と海野は振り向きざまに鷹揚に言う。
「ご相談が・・・」
「・・・込み入った話か?」
「例のカネの件で・・・」
「・・・それじゃ、インサイダーに行くか。あんた、これから仁美とテニスやるんだろ?」
そう言われて土岐は頭をかきながら、苦笑した。
喫茶店〈インサイダー〉のテーブルに着くと、
「このカネ、仁美にあげていいですか?」
と土岐は切り出した。
「賠償金を請求できなくなりますね」
「・・・そうだが、・・・だからといって、東京メトロが遺族相手に、廣川弘毅の自殺を立証して、賠償請求する訴訟を起こすことは考えられない」
「そうでしょうね。そんな話は聞いたことがないですね」
そう相槌を打って電話を切った後、土岐は札束を事務机の抽斗の中に隠し、鍵をかけた。これだけの現金を手にするのは久しぶりのことだった。
午後三時になるまで、ぼんやりとテレビを見ていた。これからどうするか考えたが、思いが空回りするばかりで、考えがまとまらない。とりあえず、テニスウエアに着替え、午後三時すぎにラケットケースの中に百万円を入れて、自宅事務所を出た。
朝方降っていた雨は止んでいた。用心のため折りたたみ傘をラケットケースにしのばせた。
茅場署に着いたのは四時過ぎだった。受付で海野を呼び出すと、数分してつま楊枝を咥えて玄関ロビーに出てきた。相変わらず、臭い。髪がボサボサだ。
「ちょっと、よろしいですか?」
と土岐が言うと、海野は顎で外に出るように指示した。
署の建物の外に出ると、
「・・・なんだ」
と海野は振り向きざまに鷹揚に言う。
「ご相談が・・・」
「・・・込み入った話か?」
「例のカネの件で・・・」
「・・・それじゃ、インサイダーに行くか。あんた、これから仁美とテニスやるんだろ?」
そう言われて土岐は頭をかきながら、苦笑した。
喫茶店〈インサイダー〉のテーブルに着くと、
「このカネ、仁美にあげていいですか?」
と土岐は切り出した。


