「・・・すべてではないが、動機の一つになっているとおれは読んでいる。・・・介護殺人の場合、犯人は介護すべき人間が身内にいなければ、一生殺人犯にならずに人生を終えたはずだ。これは、そういう環境が犯罪の原因となった可能性が七分ほどある。実際の刑事裁判でも、そうした情状は酌量される。・・・廣川弘毅が殺人事件だとした場合、・・・犯人は金井泰三の可能性が高いが、・・・金井は在日四世で、・・・本人は在日三世と標榜しているようだが、・・・やつの曽祖父が関東大震災の朝鮮人狩りで虐殺されている。祖父は朝鮮半島に帰る家がなくなって、仕方なく川崎や日暮里あたりに住んでいたようだが、戦前・戦中・戦後を通じて、一貫して差別を被っている。金井泰三が殺人を犯したとすれば、今回が初犯だ。これまで、格別の善行もしていないが、犯歴もない。人間、故のない差別を社会から受ければ、・・・たとえ故のある差別であったとしても、社会に対して反抗的になるもんだ。金井泰三の弁護をするわけではないが、廣川弘毅は金井に対して非情だった。ある種の差別感情があったのかも知れない。汚い仕事は一から十まで金井泰三にやらせた。その見返りはアルバイト代程度だった。今回の褒章ビジネスも、もともとのビジネスモデルを考えたのは金井だったが、コネクションを紹介したのが廣川だったという理由で、金井が受け取った金銭は実費プラスアルバイト代程度だった。そんな廣川の下で、金井が二十年近くもなぜ仕えたのか?・・・理由は本人に聞かなければならないだろうが、廣川は金井を目いっぱいこき使った。その鬱憤が、あの日の茅場町駅のホームでたまたま爆発したとしか考えられない。どう見ても金井に計画性はない。おれは、おれがもし、金井だったとしたらと考える。おれと金井は生まれも育ちも違うが、二十年間も仕えて利用され続けたら、ある日、ある時、ある状況で、おれも金井と同じ行動をとる可能性のあることを否定しきれない。・・・おれには残された時間がない。これがまだ若いころなら、点数稼ぎで、金井をしょっ引いただろうと思う。・・・もういい。ある意味、おれはこの世界には、うんざりしてきている。刑事被告人に判決を言い渡す裁判官の顔を幾度もまじまじと見てきたが、いつも、『愛情豊かな裕福な家庭に生まれ、この世の地獄を見ることもなく生きてきたおまえに一体何が分かる。おまえが、ホシと同じ境遇に生ま


