法蔵飛魂

「・・・盗人にも三分の理がある。犯罪者が犯罪を犯すのは必然だ。しかし、その必然は本人の気質に根ざすものと環境の影響によるものとがある。本人の気質によるものは、再犯の危険性が高いので絶対摘発しなければならない。しかし、環境の影響によるものであれば、環境を変えてやれば再犯は起きない。少年犯罪の場合、それが環境によるものであれば・・・犯罪の性格にもよるが、・・・厳罰に処すよりも環境を変えてやることの方がいい場合もある。これが少年法の精神だ。婦女連続強姦殺人の場合は、明らかに本人の気質によるものだ。そういう遺伝子を背負って生まれ出た本人の不幸もあるが、無辜の被害者の不幸の方がはるかに甚大だから、絶対に見逃すわけにはいかない。知能犯の場合は、人間社会の利益は享受する一方で、その社会の犠牲のもとに己の利益のみを得ようとする。この犯罪も許せない。廣川弘毅はサイドビジネスの所得を殆ど申告していなかった。確定申告時の税理士印が長瀬啓志で、脱税規模も年間数百万程度だから、税務署も見逃していたようだ。こういう気質は長女の金田民子が受け継いだようだ。彼女も不動産の競売物件で得た所得の何割かは税務申告していなかったようだ。しかし、脱税規模は廣川弘毅と同程度だったことと、長瀬啓志の税理士印が確定申告書に押印されていたため、税務調査が後回しにされ、いま脱税で摘発しても、過去の巨額脱税は既に時効になっている。気質的にこの父娘に共通しているのは、他者との情感の交流のないことだ。金田民子も昔、競売物件でひと儲けした時に、その物件にまだ住んでいた債務者から文化包丁で切りつけられたことがある。一般人が持ち合わせている情感がないことが、周囲の人間をいら立たせるようだ。常識的な好意を提供しても、その反応や見返りがあの父娘には一切ない。つまり、ひとの好意はすべて受ける。しかし、その好意に対する感謝も、お返しも、一切ない。むかつく奴ということだ。金井泰三は廣川弘毅にむかついていた」
「それが廣川弘毅殺害の動機になったということですか?」