通された応接間は十二畳ほどの広さがあった。壁一面に大判の百科事典や分厚い文学全集が綺麗に並べられていた。書物としてよりも装飾として置かれている配慮が感じられた。
全員が本革の黒いソファーに腰を下ろすと、長瀬がおもむろに口を開いた。
「・・・で、内閣府賞勲局からどういう依頼で?」
「・・・身辺調査です」
と海野が長瀬の顔色を窺いながら言う。
「・・・それは、もう終わったはずだが・・・」
「・・・追加調査です」
「・・・内閣府賞勲局からは、今年の夏の初めごろだったか、『紫綬褒章に内定したましたが、受諾されますか』というような連絡があったが・・・それでもう終わりではないのか」
「・・・それは、存じています。新たな件で・・・」
「・・・どんな?」
と言いながら、長瀬がテーブルの上のシガレットケースの蓋をあける。洋モクがケースいっぱいに並んでいる。長瀬は卓上ライターで火をつけた。煙の臭いが土岐の鼻腔を刺した。その紫煙をちらりと眺めながら海野が言う。
「・・・廣川弘毅殺害への関与の疑惑です」
「・・・何のことか、知らないな」
と長瀬は平然と煙を吐く。
「・・・いやあ、廣川弘毅はご存じのはずです」
「・・・知ってはいるが、自殺じゃなかったのか?」
「・・・金井泰三が実行犯です。長瀬さんが金井泰三に廣川弘毅殺害を指示したという疑惑です」
「・・・金井泰三とかいう人間は知らない」
「・・・直接は御存じではないかも知れないが、玉井要蔵に廣川弘毅殺害を指示し、玉井要蔵が金井泰三に指示した・・・」
「・・・何のことだかわからん」
と長瀬は軽く吸った煙草を深く吸い込まず、煙を吐き出さずに、口を開けたままで、煙が勝手に口蓋から出て行くのに任せている。八十歳過ぎにしては、顔の色つやがいい。その落ち着きぶりが演技なのかどうか、土岐には読めない。
海野は話を変えた。
「・・・最近、殺人の時効が撤廃されまして、法務省の諮問委員会から、それを更に改正する答申が出される予定です。しかもその時効撤廃の適用は過去の殺人にも及ぶという内容で・・・」
全員が本革の黒いソファーに腰を下ろすと、長瀬がおもむろに口を開いた。
「・・・で、内閣府賞勲局からどういう依頼で?」
「・・・身辺調査です」
と海野が長瀬の顔色を窺いながら言う。
「・・・それは、もう終わったはずだが・・・」
「・・・追加調査です」
「・・・内閣府賞勲局からは、今年の夏の初めごろだったか、『紫綬褒章に内定したましたが、受諾されますか』というような連絡があったが・・・それでもう終わりではないのか」
「・・・それは、存じています。新たな件で・・・」
「・・・どんな?」
と言いながら、長瀬がテーブルの上のシガレットケースの蓋をあける。洋モクがケースいっぱいに並んでいる。長瀬は卓上ライターで火をつけた。煙の臭いが土岐の鼻腔を刺した。その紫煙をちらりと眺めながら海野が言う。
「・・・廣川弘毅殺害への関与の疑惑です」
「・・・何のことか、知らないな」
と長瀬は平然と煙を吐く。
「・・・いやあ、廣川弘毅はご存じのはずです」
「・・・知ってはいるが、自殺じゃなかったのか?」
「・・・金井泰三が実行犯です。長瀬さんが金井泰三に廣川弘毅殺害を指示したという疑惑です」
「・・・金井泰三とかいう人間は知らない」
「・・・直接は御存じではないかも知れないが、玉井要蔵に廣川弘毅殺害を指示し、玉井要蔵が金井泰三に指示した・・・」
「・・・何のことだかわからん」
と長瀬は軽く吸った煙草を深く吸い込まず、煙を吐き出さずに、口を開けたままで、煙が勝手に口蓋から出て行くのに任せている。八十歳過ぎにしては、顔の色つやがいい。その落ち着きぶりが演技なのかどうか、土岐には読めない。
海野は話を変えた。
「・・・最近、殺人の時効が撤廃されまして、法務省の諮問委員会から、それを更に改正する答申が出される予定です。しかもその時効撤廃の適用は過去の殺人にも及ぶという内容で・・・」


