と、隠匿物資横領の疑惑が明るみに見出れば、褒章取り消しとなることにおびえた。金井泰三はあんたから、その話を聞きつけた。長瀬に恩を売る絶好の機会と捉えたのだろう。廣川が居なくなれば、多少残っている廣川の利権を金井は手にすることができる。同時に、長瀬、船井、馬田に恩を売って、何らかの見返りを期待できる、さらには金田民子と昵懇だったことから、民子を通じて、廣川の遺産を入手することもできる。さらには、褒章の一般推薦ビジネスを独占できる。もともとこのビジネスモデルを考えたのは金井泰三だ。金井の知り合いの不動産屋が紫綬褒章を受章したのがきっかけだ。張本という不動産屋だが、人品骨柄のいやしい男で、金井自身、金田にもらした。『どうして、高等小学校しか出ていないあのひひ親父が受章できたのか』と不思議に思った。調べてみたら平成十五年から褒章の一般推薦制度が始まったことを知った。張本の推薦人は十数年以上後援会長として資金的に援助してきた代議士だ。金井は、『ゆくゆく、これは、ロットこそ少ないものの立派な商売になることはまちがいない』と踏んだ。そこで、廣川弘毅に話を持ちかけて、廣川の顔を利用して、褒章を受けていない財界人に売り込んだ。ついでに受章後の祝賀パーティと胸像の製作をセットにして一件当たり数百万の利益を生み出した。しかし、こうしたビジネスモデルはすべて廣川のコネクションを利用したもので、その結果、金井自身は収益の半分以下の受け取りで我慢させられた。金井泰三は、長田を殺すと見せかけて、廣川を殺害した。あんたらは、金井が長田を殺すところを誤って金井が廣川を殺したと思っていた。長田が生きている限り、長瀬がおそれている影は消えない。ところが、事件後、数日たっても、長田の方から何の連絡もない。ということは、長瀬が恐れた影は、幻影に過ぎなかったと思うようになった。冷静に考えてみると、ここ二十年間以上にわたってダニのようにカネをせびり続けてきた廣川が死んだことは、長瀬にとっても船井にとっても馬田にとっても、ある意味で清々したところがある。そこで、長瀬と船井と馬田が政界コネクションを使って、廣川の死を自殺で処理させた。これには玉井さん、あんたも一枚かんでいる。その処理で困るのは佐藤加奈子程度で、他には何の影響もない。すべては、丸く収まった。これがおれの推理だ。玉井さん、何かコメントはありますか?」


