法蔵飛魂

「・・・任意だから、別に署でやらなければならんという法律はない。玉井要蔵がここを指定してきた。こっちは茅場署でもいいんだが、やっこさん、顔見知りでもいると、いやだということじゃないのか。・・・たしかに、署の取調室は、取り調べる方だって息が詰まるような鬱陶しい部屋だ」
 土岐は海野が聞いてこないので、自分の方から話した。
「見城仁美は偽証であったことを民事で吐露してくれると思います。それに現場に廣川弘毅と一緒にいたもう一人の老人は長田賢治で、彼も事件が殺人であることを証言してくれると思います」
「・・・確かか?マスコミが注目しなけりゃいいが、・・・注目されるようであれば厄介なことになる。どっちにしても、示談にせざるを得なくなるだろう。結審まで行かせてもらえないはずだ。いざとなれば、双方の弁護士にもその筋から手が回るはずだ」

 八階に停止していたエレベーターが下降し始める音がした。
 やがて、一階で停止し、再び上昇を始めた。
「・・・来たな。じゃあ、よろしく・・・聞きたいことがあれば、話してもいいが、おれの同僚だということを忘れないでいてくれ。相手は元プロの刑事だからな、気をつけて・・・」
 エレベーターがガタンと止まり、籠の中からずんぐりむっくりした小柄な男が出てきた。160センチあるかどうかという背丈だ。エレベーター内の照明が光背になって、男の顔が見えない。かろうじて、黒縁めがねをかけていることだけが分かった。
「・・・海野さんかい?」
「・・・そうです。どうも、お休みの所、ご足労をかけます。吉野さんからお噂はかねがね伺っております」
「・・・そっちの若いのは?」
 土岐は海野の顔を見た。どう答えていいか分からない。海野が代わりに答えた。
「・・・相棒で、土岐と言います。新米です」
「・・・そうかい・・・まあ、中で話そう」
 そう言って、玉井要蔵はポケットから鍵の束を取り出した。手元が暗い。鍵を選り出している。ドアを開けた。すぐに室内の照明が灯された。入るとすぐ、上半分がすりガラスのパーティションがあり、その奥に四人がけの簡単な応接セットがあった。ソファーに腰を下ろすと、玉井要蔵はすぐ聞いてきた。
「・・・で、どういう情報?」