分かりません。でも、離婚したのは、郭公姐さんのことだけじゃなくって、愛子ちゃんの旦那の見城さんにも原因があったみたいで、・・・一度だけ、愛子ちゃんから聞いたことがあったんだけど、見城さんは競輪、競馬、競艇、マージャン、花札、チンチロリン、・・・博打なら何でも好きで、働くのは嫌いな怠け者で、ほとんど正業に就くことがなかったみたいで、無頼の人で、生活は愛子ちゃんのスーパーのパート店員の給与だけで・・・そうこうするうちに、郭公姐さんも亡くなられて、・・・わたしは、廣川さんに連絡するように愛子ちゃんに強く言ったんですけど、とうとう連絡もしないで・・・とってもさみしいお葬式でした。会葬者が十人くらいで、・・・」
徳子は声を詰まらせた。涙が零れないように目を細めている。懐から白い布きれを出して睫毛に当てる。座を湿っぽい沈黙が支配した。遠くの座敷から、三味の音がかすかに聞こえてきた。明るい曲調だ。土岐がその沈黙を破った。
「皆さん、中井愛子さんが船橋法典の特別養護老人ホームにおられるのをご存知ですか?」
一同が揃って波打つように首を左右に振った。宇多が徳子に聞いた。
「・・・その中井愛子さんは、ご自分の父親が廣川氏だと知っていたんでしょうか?」
「・・・さあ、当時はDNA鑑定なんていう便利なものはなかったし、郭公姐さんはとうとう最後まで父親のことは愛子ちゃんに言わなかったみたいだし・・・」
こんどは土岐が徳子に聞いた。
「中井和子さんはどうして父親のことを秘密にしていたんでしょうか?」
「・・・これは、わたしの推測ですが、廣川さんのご指名が頻繁にあったころ、いちど、吉野とかいう刑事さんと玉井とかいう刑事さんに呼ばれて、廣川さんのことを根ほり葉ほり聞かれたようです」
吉野刑事と聞いて、土岐の記憶に保木間の碁会所の片隅でグレーのジャージーを着て、サンダル履きで、左手に弁当箱、右手に箸を持って、ぶつぶつ呟いている皺だらけの老人が甦った。同時に、玉井刑事と聞いて、船井ビル八階の玉井企画というレタリング文字のある事務室が思い出された。徳子の話は続いていた。
「・・・それ以来、廣川さんが単なる御贔屓筋ではなくなったみたいで・・・吉野とかいう刑事さんと玉井とかいう刑事さんに何を聞かれたのか、最後まで言わなかったけど、・・・
徳子は声を詰まらせた。涙が零れないように目を細めている。懐から白い布きれを出して睫毛に当てる。座を湿っぽい沈黙が支配した。遠くの座敷から、三味の音がかすかに聞こえてきた。明るい曲調だ。土岐がその沈黙を破った。
「皆さん、中井愛子さんが船橋法典の特別養護老人ホームにおられるのをご存知ですか?」
一同が揃って波打つように首を左右に振った。宇多が徳子に聞いた。
「・・・その中井愛子さんは、ご自分の父親が廣川氏だと知っていたんでしょうか?」
「・・・さあ、当時はDNA鑑定なんていう便利なものはなかったし、郭公姐さんはとうとう最後まで父親のことは愛子ちゃんに言わなかったみたいだし・・・」
こんどは土岐が徳子に聞いた。
「中井和子さんはどうして父親のことを秘密にしていたんでしょうか?」
「・・・これは、わたしの推測ですが、廣川さんのご指名が頻繁にあったころ、いちど、吉野とかいう刑事さんと玉井とかいう刑事さんに呼ばれて、廣川さんのことを根ほり葉ほり聞かれたようです」
吉野刑事と聞いて、土岐の記憶に保木間の碁会所の片隅でグレーのジャージーを着て、サンダル履きで、左手に弁当箱、右手に箸を持って、ぶつぶつ呟いている皺だらけの老人が甦った。同時に、玉井刑事と聞いて、船井ビル八階の玉井企画というレタリング文字のある事務室が思い出された。徳子の話は続いていた。
「・・・それ以来、廣川さんが単なる御贔屓筋ではなくなったみたいで・・・吉野とかいう刑事さんと玉井とかいう刑事さんに何を聞かれたのか、最後まで言わなかったけど、・・・


