「・・・あ、そうそう、中井さんだった。娘さんが小学校に上がったとき胸の名札が確か、『中井』だったわ。隅田川の土手の桜が満開で。その頃お座敷で一緒になったことがあって、娘さんの父親に報告の電話を初めてかけたら、奥さんが出てきたとか。伝言を頼んだけど、『その後、一切連絡がないから、たぶん、無視されたんだろう』って、悲しいような、情けないような、切ないような、そんな感じで、ぼやいていたわ」
隣の宇多が土岐に耳打ちした。
「・・・どういうことだ」
カネを出す自分がツンボ桟敷に置かれていることが不満のようだった。土岐はあわてて説明を始めた。全員がそれに聞き入った。
「中井和子の旦那がたぶん、廣川弘毅だったんです。和子の一人娘の愛子は私生児で、おそらく廣川弘毅の子だったんじゃないでしょうか。確証はありませんが・・・それを苦にしたのかどうか、それも含めた廣川弘毅の女遊びを苦にして正妻の圭子は自殺しています。そうであるとすれば、中井愛子の娘の見城仁美は廣川弘毅の孫にあたる。見城仁美は長田賢治の孫でもある。この三人が地下鉄茅場町駅で交錯して、廣川弘毅は轢死体となった。現在痴呆状態にある中井愛子はすべての事情を知っている筈だが、そういう状態になったのは、母親の中井和子からの遺伝ということになるのかも知れない。そのことを廣川弘毅は知っていたのかどうか?・・・いや、たぶん、知らなかったんじゃないだろうか。・・・中井愛子が自分の子供であることを知っていれば、廣川ほどの財力があれば、見城仁美になんらかの資金的な援助はしていたはずだ」
座がいっぺんで白けた。勘太が一同に聞いた。
「・・・郭公姐さんはどこの置屋だったの?」
市松が答えた。
「・・・確か、隅屋だったと思ったけど・・・」
女将がそれを補足した。
「・・・隅屋はこの間、代替わりしたばかり・・・先代のおかあさんは一応引退したことになっているけれど、まだ隅屋にいるはず・・・連絡をとってみましょうか?」
女将が少し首をかしげ、土岐の顔を斜め目線で見た。土岐は呑みかけていたコップのビールを膳に戻した。
「お願いします。できたら、話を聞きたいんですが・・・」
「・・・いれば、すぐ来ますよ。この裏なんだから・・・」
隣の宇多が土岐に耳打ちした。
「・・・どういうことだ」
カネを出す自分がツンボ桟敷に置かれていることが不満のようだった。土岐はあわてて説明を始めた。全員がそれに聞き入った。
「中井和子の旦那がたぶん、廣川弘毅だったんです。和子の一人娘の愛子は私生児で、おそらく廣川弘毅の子だったんじゃないでしょうか。確証はありませんが・・・それを苦にしたのかどうか、それも含めた廣川弘毅の女遊びを苦にして正妻の圭子は自殺しています。そうであるとすれば、中井愛子の娘の見城仁美は廣川弘毅の孫にあたる。見城仁美は長田賢治の孫でもある。この三人が地下鉄茅場町駅で交錯して、廣川弘毅は轢死体となった。現在痴呆状態にある中井愛子はすべての事情を知っている筈だが、そういう状態になったのは、母親の中井和子からの遺伝ということになるのかも知れない。そのことを廣川弘毅は知っていたのかどうか?・・・いや、たぶん、知らなかったんじゃないだろうか。・・・中井愛子が自分の子供であることを知っていれば、廣川ほどの財力があれば、見城仁美になんらかの資金的な援助はしていたはずだ」
座がいっぺんで白けた。勘太が一同に聞いた。
「・・・郭公姐さんはどこの置屋だったの?」
市松が答えた。
「・・・確か、隅屋だったと思ったけど・・・」
女将がそれを補足した。
「・・・隅屋はこの間、代替わりしたばかり・・・先代のおかあさんは一応引退したことになっているけれど、まだ隅屋にいるはず・・・連絡をとってみましょうか?」
女将が少し首をかしげ、土岐の顔を斜め目線で見た。土岐は呑みかけていたコップのビールを膳に戻した。
「お願いします。できたら、話を聞きたいんですが・・・」
「・・・いれば、すぐ来ますよ。この裏なんだから・・・」


