と宇多は三つ揃えのチョッキのボタンをはずし、すっかり宴会気分になっていた。土岐は完全に酔いの回る前に話を聞きたかったが、スポンサーの意向には逆らえなかった。
最初に市松が勘太師匠の三味線でひと舞い見せた。鬘の若々しいつやと、顔肌のぼろぼろのファンデーションの不釣り合いが際立っていた。しかし扇子の手さばきと蹴出しの足運びは往年の華麗さを彷彿とさせた。
次に植吉が藤八拳のような滑稽な踊りを市松との掛け合いで見せた。二時間が一区切りと聞いていたので土岐は残り時間を腕時計で絶えず確認していた。
最後に勘太師匠が新内をしんみりと流し始めた。土岐は切り出した。
「お三方にお聞きします。いまから五十年くらい前、このあたりで廣川弘毅という男が芸者遊びをしていて芸者と懇ろになったらしいというんですが、聞いたことはないですか?」
市松が聞いた。
「・・・その芸妓さんのお名前は?」
「それが分かりません」
植吉が市松と顔を見合わせる。
「・・・お客さんの名前が、廣川コーキさんと分かっても、お客さんはその頃五万といましたので・・・何か特徴でもあれば・・・」
「その頃、たぶん、総会屋をやっていたはずです。だから、いわゆる普通の企業の接待の宴会とは違う雰囲気だったんじゃないかと思うんですが・・・廣川弘毅は接待される側で、接待するのは大企業の総務部の社員で・・・これが顔写真です」
と土岐は廣川弘毅のパスポート写真を出して、女将に渡した。女将はそれを右端に座っていた勘太に渡し、勘太から市松、市松から植吉へ回覧された。最後に植吉が土岐にパスポートを返した。その間、バックグラウンドミュージックのように勘太の三味線がばち打たれていた。土岐がパスポートを内ポケットにしまった時、勘太のばちが不意に止まった。
「・・・コーキ、コーキ、・・・ヒコーキ。ひょっとして、その廣川弘毅さんのお相手は、飛行機さんじゃないかな」
市松が勘太の方を向いた。
「・・・飛行機さんって、・・・郭公姐さんのこと?」
植吉が市松に聞く。
「・・・なんで、郭公姐さんのことを飛行機って言うのです?」
市松が植吉と土岐と宇多の顔を交互に見ながら説明する。
最初に市松が勘太師匠の三味線でひと舞い見せた。鬘の若々しいつやと、顔肌のぼろぼろのファンデーションの不釣り合いが際立っていた。しかし扇子の手さばきと蹴出しの足運びは往年の華麗さを彷彿とさせた。
次に植吉が藤八拳のような滑稽な踊りを市松との掛け合いで見せた。二時間が一区切りと聞いていたので土岐は残り時間を腕時計で絶えず確認していた。
最後に勘太師匠が新内をしんみりと流し始めた。土岐は切り出した。
「お三方にお聞きします。いまから五十年くらい前、このあたりで廣川弘毅という男が芸者遊びをしていて芸者と懇ろになったらしいというんですが、聞いたことはないですか?」
市松が聞いた。
「・・・その芸妓さんのお名前は?」
「それが分かりません」
植吉が市松と顔を見合わせる。
「・・・お客さんの名前が、廣川コーキさんと分かっても、お客さんはその頃五万といましたので・・・何か特徴でもあれば・・・」
「その頃、たぶん、総会屋をやっていたはずです。だから、いわゆる普通の企業の接待の宴会とは違う雰囲気だったんじゃないかと思うんですが・・・廣川弘毅は接待される側で、接待するのは大企業の総務部の社員で・・・これが顔写真です」
と土岐は廣川弘毅のパスポート写真を出して、女将に渡した。女将はそれを右端に座っていた勘太に渡し、勘太から市松、市松から植吉へ回覧された。最後に植吉が土岐にパスポートを返した。その間、バックグラウンドミュージックのように勘太の三味線がばち打たれていた。土岐がパスポートを内ポケットにしまった時、勘太のばちが不意に止まった。
「・・・コーキ、コーキ、・・・ヒコーキ。ひょっとして、その廣川弘毅さんのお相手は、飛行機さんじゃないかな」
市松が勘太の方を向いた。
「・・・飛行機さんって、・・・郭公姐さんのこと?」
植吉が市松に聞く。
「・・・なんで、郭公姐さんのことを飛行機って言うのです?」
市松が植吉と土岐と宇多の顔を交互に見ながら説明する。


