「物証がないから、もう少し、状況証拠を積み上げないとね。・・・目撃者がいても、『自殺だと思う』『思わない』では水かけ論で、警察が自殺で処理したこともあるし、保険会社相手では、まず勝てない」
「USライフの顧問弁護士とは、どういう話になっているんですか?」
土岐は宇多の表情を注視した。嘘をつく可能性があると踏んでいた。瞬時に姦計を巡らしているのが、宇多の表情からにじみ出ている。
「・・・大野女史から聞いたのか?・・・向こうは、示談が成立しそうだと勝手に思い込んでいるようだが・・・」
「で、実際のところはどうなんです?」
「・・・こっちの手の内を見せるわけがないでしょ。向こうがそう思いたければ、そう思わせておくだけだ」
と不愉快そうに言う。土岐にUSライフとの癒着の嫌疑をかけられたことに気づいたようだ。土岐の疑念が図星でないことを宇多は弁解する。
「・・・こちらはあんたと違って、事務所経費や事務員の給与やら固定費が掛って大変なのよ。思わず知らず、そういう心掛かりが言動を曖昧にさせることはあるけれど、筋はいつも通しているから、心配しないで大丈夫」
それを聞いて、土岐は待っていたかのように身を少し乗り出した。
「そこで、今夜、証拠集めをしたいんですが・・・付き合っていただけますか?」
「・・・また、接待交際費のおねだり?」
「すいません。今回は、いくら用意していいか分からないんで・・・」
葉巻たばこの煙を吐き出しながら、宇多の顔色が少し渋目に変わった。
「・・・どこ?」
「向島です」
「・・・へえ、あんなところの馴染なの?」
「まさか、今日が初見です」
「・・・なんだ、裏も返していないのに、接待?」
「今夜、よろしければ、予約をとりますが・・・」
「・・・残念ながら、今夜はほかに何の予定もないので、付き合わざるを得ないなあ。・・・まあ、向島も一度ぐらいは、行って見てもいいでしょう。銀座も新宿も飽き飽きしたし、・・・じゃあ、向かいの中華料理屋で腹ごしらえをして、いっぱいひっかけてから、行くことにするか」
土岐はそこで貰った名刺を見ながら、〈波家〉に七時の予約の電話を入れた。五十年前のことを知っている人を座敷に呼んでくれるように頼んだ。若い芸妓は不要とも伝えた。
「・・・そうですか。それは助かります。今日は、金曜日なんで、若い子は、かもめさんも出払っていて、・・・」
「USライフの顧問弁護士とは、どういう話になっているんですか?」
土岐は宇多の表情を注視した。嘘をつく可能性があると踏んでいた。瞬時に姦計を巡らしているのが、宇多の表情からにじみ出ている。
「・・・大野女史から聞いたのか?・・・向こうは、示談が成立しそうだと勝手に思い込んでいるようだが・・・」
「で、実際のところはどうなんです?」
「・・・こっちの手の内を見せるわけがないでしょ。向こうがそう思いたければ、そう思わせておくだけだ」
と不愉快そうに言う。土岐にUSライフとの癒着の嫌疑をかけられたことに気づいたようだ。土岐の疑念が図星でないことを宇多は弁解する。
「・・・こちらはあんたと違って、事務所経費や事務員の給与やら固定費が掛って大変なのよ。思わず知らず、そういう心掛かりが言動を曖昧にさせることはあるけれど、筋はいつも通しているから、心配しないで大丈夫」
それを聞いて、土岐は待っていたかのように身を少し乗り出した。
「そこで、今夜、証拠集めをしたいんですが・・・付き合っていただけますか?」
「・・・また、接待交際費のおねだり?」
「すいません。今回は、いくら用意していいか分からないんで・・・」
葉巻たばこの煙を吐き出しながら、宇多の顔色が少し渋目に変わった。
「・・・どこ?」
「向島です」
「・・・へえ、あんなところの馴染なの?」
「まさか、今日が初見です」
「・・・なんだ、裏も返していないのに、接待?」
「今夜、よろしければ、予約をとりますが・・・」
「・・・残念ながら、今夜はほかに何の予定もないので、付き合わざるを得ないなあ。・・・まあ、向島も一度ぐらいは、行って見てもいいでしょう。銀座も新宿も飽き飽きしたし、・・・じゃあ、向かいの中華料理屋で腹ごしらえをして、いっぱいひっかけてから、行くことにするか」
土岐はそこで貰った名刺を見ながら、〈波家〉に七時の予約の電話を入れた。五十年前のことを知っている人を座敷に呼んでくれるように頼んだ。若い芸妓は不要とも伝えた。
「・・・そうですか。それは助かります。今日は、金曜日なんで、若い子は、かもめさんも出払っていて、・・・」


