法蔵飛魂

 土岐は見城仁美に同情することはできそうな気がした。決して恵まれた生い立ちではない。実父の家庭内暴力が原因で両親が離婚し、母親に捨てられて、父親の世話をすることになった。その父親は肝硬変で死に、行方不明だった母親が痴呆症で現れる。祖父の長田賢治も助力はしただろうが、すでに高齢だ。母親の入所費用にカネがかかる。結婚資金などためられるはずがない。そして今回の事件だ。皮肉にも偽証することで、母親の特養ホームを自宅アパートの近くに変えることができた。それと引き換えに偽証という重い十字架を背負うことになった。それは負の足かせとなって一生ついて回る。
 土岐が思案していると、海野が生ビールとおつまみをそそくさと片づけ始めた。店は次第に混雑してきた。海野が、おあいそをしたがっている雰囲気を土岐は感じ取った。
「・・・成功報酬が佐藤加奈子からいくらとれるか分からんが、おれは協力するぞ」
 そう言って海野は立ち上がった。土岐は海野を信じることにした。
「これまでの調査報告書を添付ファイルで海野さんのアドレスに送信しますので、それを見たうえで後日コメントをください。それから中村貞江という女を知っていますか?」
「・・・知らんな。誰だそれ?」
「三田法蔵の骨壷を香良洲の善導寺から持ち去った女です」
「・・・ミタホウゾウ?誰だ、それ?」
「詳しくは、調査報告書に書いてあります」
「・・・持ち去ったというのは、いつのことだ」
「四十年ぐらい前です」
「・・・どこの女だ」
「当時の住所は、巣鴨です」
「・・・じじいばばあの銀座か」
「とげぬき地蔵のいるとこですよ」
「・・・住所のメモをよこせ。調べといてやろう」
「おねがいします」
と言いながら、土岐は手帳の一ページに住所と名前をメモして、海野に渡した。
 土岐が学生の頃、こうした類の居酒屋に若い女性客はあまり見られなかったが、〈株都〉には木曜日のせいか、数人のOLがいた。その嬌声に背中を押されるように二人はその店を出た。冷たい秋風がビルの谷間を吹き抜けていた。蛍光灯が煌々とついているビルと真っ暗なビルが無秩序に並んでいる。窓がクロスワードパズルの虫食いのように黒くなっているビルもある。